第44話 みなさん頑張ってください

 灰色の控室ひかえしつ

「はい。参加者です」

 ハジメは、物おじせずに答えた。殺気さっきは感じられない。普段どおりの振る舞いをつづけている。荷物を置かず、腰もかけなかった。

「どうした? 道着どうぎは着てくるように言われてたはずだろう?」

 男は、ハジメが普段着で来ていることを指摘している。個別の控室ひかえしつがないため、着替えができないためだ。

「これで出場します」

「正気か?」

「はい」

「なにっ? き、貴様きさま武闘大会ぶとうたいかいをなめているのか?」

 男には、ハジメが得体の知れない化け物のように感じられているようだ。これまで出会ったことのない種類の人間。いや、人間であるかも疑わしいと思っている。

「いえ。みなさん頑張ってください」

 どよめきが起こる控室ひかえしつ。ハジメのほかにも、七人の選手がいた。女性は一名だけ。

 その女性の名は、月山モミジ。ハジメを実力者だと勘違いしていた。試合前しあいまえだというのに水分補給をしているからだ。よほどの自信があると思われている。

 別の選手せんしゅが口を開く。

「お前、名前は」

宝田たからだハジメです。よろしくお願いします」

 やけに丁寧ていねいなハジメ。最初に話しかけて男も含めて、いぶかしげな表情で見ている。額や頬に汗を流す者もいた。

おれ田辺たなべホウサクだ。貴様きさまなどには絶対に負けんからな!」

 最初に話しかけた男は、名を名乗った。ほかの参加者たちは、遠巻きに見るだけ。

 ハジメは、あくびをしていた。


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