第41話 言うべき言葉

 平日が過ぎ、土曜日になった。

 相変わらず、というか暑さがさらに増している。まるで沸騰ふっとうしているかのようだ。

「ハジメさん。おはようございます」

「おはよう。あと1週間ね」

「よっ。ハジメ。身体からだきたえてるか?」

 さんにんに対して、ハジメは、なんの感慨かんがいもわいていなかった。ただ、言うべき言葉を言った。

「おはよう」

 玄関げんかんから家の中へ。廊下ろうかは暑い。しかし、ハジメの部屋は冷房のおかげで涼しい。

 死神しにがみちゃんとゲームをするのはこれが最後かもしれない。そう思っても、ハジメには特にさみしさはなかった。

 すこし、料理の味が忘れられないかもしれない、と思った。市販のものよりも薄味な、あの料理が。

「いいんですか? 修行しゅぎょうしなくても」

「いいんだよ。これで」

 死神ちゃんの疑問にも、即答。ハジメは、詳しい計画を話さない。ちなみに、すでに選手として参加することは決まっていた。

「その余裕。足元をすくわれないようにするんだな!」

「そう言う九頭竜くずりゅうナオキ。あなたは参加しないの?」

 マツの言葉に、さんにんがナオキのほうを見た。

「参加するわけないじゃないか。オレは、無力だ」

 がっくりと肩を落とすナオキ。ゆっくりとメガネの位置を直した。過去に何があったのか。みな、それを知るよしもなかった。

 その日も死神しにがみちゃんの料理を食べた。涼しい台所で。

 歯磨きをして。

 再びゲームをし、ほどよい時間で解散となる。

「それじゃ、またな」


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