第40話 ルール違反じゃない

 何事もなかったかのように。

 その日もいつものように、ハジメの部屋でゲーム三昧ざんまい

 四人同時プレイをしたりしなかったりして過ごした。

「ちょっと! し――ハジメさん! それは反則ですよ!」

「ルール違反いはんじゃないぞ」

「そうよ。青井あおいユイ。おとなしく負けを認めなさい」

「なんてことだ。オレに力がないばかりに」

 ナオキはくやしがっていた。ハジメにゲームで勝ったことは、まだなかった。

「みんなゲーム買ったんだろ? だったら条件じょうけんは同じじゃないか」

「それは、そうなんですけど」

 歯切れの悪い死神しにがみちゃん。めずらしい。

「操作感がムズいんだよ」

「まったくだわ。なかなか慣れないもの」

 ナオキとマツは、同じようにぼやいた。

 そして、昼もおなじく。死神しにがみちゃんが料理を作るのを、さんにんでながめた。すこしだけ手伝う。もちろん、冷房をつけている。

「やっぱり、おいしいです」

「えっへん」

 ナオキの見え見えのお世辞せじに、死神しにがみちゃんがこたえた。心から喜んでいる。

「ふっ」

「何よ、その笑いは。今日、おかしいわよ?」

 マツは何かをさっしている。だが、それを直接的な形では口にしなかった。

 食後も再びゲームにきょうじるよにん。歯磨きも忘れない。

 時間はあっというまに過ぎ、解散になった。

「さて、と」

 ハジメがつぶやいた。ひとりきりの部屋で。

 もう一度、張り紙を、武闘大会ぶとうたいかいの詳細を見る。

「ボコボコにやられれば、愛想をつかして去っていくだろう」

 本音が駄々洩だだもれだ。

 ハジメは、みずからを犠牲ぎせいにして死神しにがみちゃんを遠ざけようとしていた。


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