第39話 張り紙

 土曜日。

 いつものように、死神しにがみちゃんとマツ、それにナオキが玄関前げんかんまえに立っていた。朝だというのに暑いので、うっすらと汗を浮かべている。

「いらっしゃい」

 ハジメはにこにこしている。

「え? こわっ。何か怖いわね」

「何がです? いい笑顔じゃないですか」

 ロングヘアのマツとツインテールの死神しにがみちゃんは、やはり対照的たいしょうてきな反応を見せた。

「君ってやつは」

 ナオキにいたっては、もはや何を考えているのか、はたから見ると理解不能である。

「まあ、とりあえず入ってくれ」

 ハジメは、不自然な笑顔のまま、みなを自宅に招き入れた。


「何かいいことがあったんですね、ハジメさん」

「ああ。これを見てくれ」

 冷房が効いた部屋でハジメが取り出したのは、職場しょくば掲示板けいじばんに貼ってあった張り紙。そのコピーだ。

「これって、あの謎の――」

「こ、これは。宝田たからだハジメ。正気なの?」

 ナオキの言葉をさえぎって、マツがハジメに問いただした。

「ぼくは、いつも本気だ」

 笑顔の奥から、かすかに殺気さっきれたような気がした。死神しにがみちゃんのほおがわずかに染まる。

武闘大会ぶとうたいかいが、再来週の土曜日に。ま、まさか」

「ハジメさん。見学に行くんですか?」

 いつもよりトーンの高い声。死神しにがみちゃんはカマをかけるのが下手だ。

「参加するんだよ。お前も来い」

「な、なにィ!」

 ナオキが大げさに驚いた。けっして、ハジメはナオキに対して来いとは言っていない。

「わかりました! 行きます!」

「アタシも同行するわ。青井あおいユイを野放しにはできないもの」

「それで。ちょっと九頭竜くずりゅうさんに頼みが――」

くるまだろ? 徒歩だとちょっと遠いからな。いいぜ。ただし、ナオキって呼ぶなら、な」

 口をとがらせて固まったハジメ。しばしの沈黙のあと、口が開かれた。

「ナオキさん。お願いします」


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