武闘大会編

第38話 このままではいけない

 季節は変わり、夏。

「このままではいけない」

 ハジメがつぶやいた。その言葉は、掃除機そうじきから出る音にかき消される。

 いまは掃除中そうじちゅう。いつものように、神薙かんなぎいえ居室きょしつ

 冷房が効いているため暑くはない。

 とはいえ、しばらく動きっぱなしのため、うっすらと汗をかいていた。首からかけている汗拭あせふきタオルで汗をぬぐう。

 ハジメは、土曜日に死神しにがみちゃんとマツ、ついでにナオキといつも一緒にいた。

 いや、たまにナオキが仕事でいないこともあった。だが、そんなことはどうでもよかった。

「どうしたら、あいつを引きはがせるんだ」

 次の部屋の掃除をしながら、ひとごとはつづく。

「ちょっと、時間ある? シーツつけるの手伝ってくれる?」

「はい。時任ときとうさん」

 ユニットAの時任ときとうアズサは、ハジメを頼って仕事を頼むことがあった。あまり手際てぎわがよくない男は、内心複雑ないしんふくざつ心境しんきょうだった。

 休み時間。

 シンクを運ぶ時間の都合上、11時45分という微妙な時間から休みに入っていた。仕事再開は、12時45分。

 なかば倉庫と化した男性用の着替えをする部屋。そこで、朝に買っておいた弁当を食べるハジメ。もちろん、割高なものの営業時間が長い近所の店で買っていた。

「そもそも、殺気さっきってなんなんだよ」

 思いが口に出てしまうハジメ。

 あわてて口をつぐんだ。

 食事が終わる。

 トイレからの帰りに、ふと掲示板けいじばんを見るハジメ。仕事の連絡に混じった中にある、ひとつの張り紙が目を引いた。

「これだ!」

 またしても、考えていることが口から出てしまった。


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