第36話 お米

「すこし早いですが、食材を買いに行きませんか?」

 唐突とうとつに、死神しにがみちゃんが発言した。

「えっ? 青井あおいユイさんって、料理もできるんですか? 素敵すてきだぁ」

「また作る気か」

 ハジメは、あまり乗り気ではない。理由は、台所を使われたくないから、ではない。これ以上関わり合いになりたくないからだ。

「認めるのはシャクだけど、おいしいものね。いいわ。行きましょう」

「そうなんだ。楽しみだなぁ」

「おい。勝手に決めるな」

「いいじゃないですか。どうせ、食べるものないんでしょ? ハジメさん」

「ない」

「決まりね。それじゃあ、この前のお店でいいかしら」

 マツが勝手に仕切って、結局行くことになった。


「これにしましょう。あと、これも」

 死神ちゃんが次々に材料をかごに入れていく。ここは前回も来たお店。いわゆるスーパーマーケットだ。

「いいけど、今回もパンか?」

「この、電子レンジで温めて食べるお米にしませんか?」

 ナオキが提案ていあんした。

 特に反論もなく、お米に決定。ナオキが、見てわかるほどはっきりと喜ぶ。

「日本を離れていたわけでもないでしょうに。なぜそんなに喜ぶのかしら」

 マツの疑問に、ナオキが答える。

じつは、海外にいた期間が長かったんだ。向こうの学校を卒業したから」

「そうなんですか」

 話を一番真剣に聞いているのはハジメだった。

「自慢じゃないけど、飛び級して卒業したんだ。すごいだろ」

「自慢じゃないですかー」

 死神しにがみちゃんは笑っていた。それを見て、ナオキも笑顔になる。

「へぇ」

 マツは、意味ありげにほほ笑んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る