第35話 不敵な笑み

 勝負しょうぶを繰り返す、死神しにがみちゃんとマツ。

「わたしのほうが、0・1秒早いですね!」

「まだよ。まだ戦いは始まったばかりよ!」

 そんな会話が繰り広げられているなか、ナオキが口を開いた。トイレから戻ってきたときに場所を変えていた。いまはハジメの隣に位置する部分のベッドに座っている。あらかじめ断っておくが、ここはハジメの部屋である。

「なあ。青井あおいユイさんって、付き合っている人いるのかな?」

「いえ。いたら、こんなところに来ないと思います」

 ハジメはすっぱりと言い切った。

 二人の会話は、死神しにがみちゃんとマツには聞こえていない。ふたりは勝負しょうぶに必死だ。

「くっ。おマツ。やりますね!」

「あなたもね。でも、勝ちはもらうわ!」

 不敵ふてきみを浮かべたナオキが、やさしく隣りの男の肩を叩く。

「だから、そんなにかしこまらなくていいって、ハジメ」

「いや。そういうわけにはいきませんよ。九頭竜くずりゅうさん」

 ハジメはかたくなだった。仕事上の付き合いという形をくずしていない。人との距離感をはかるのが苦手だった。

 そのとき、決着した。

「くぅぅ。なんてこと!」

「ふっ。アタシの勝ちのようね。しに……いえ、青井あおいユイ!」

 勝ったのは、マツだった。


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