第30話 九頭竜ナオキ

 どんよりと曇った空。

 まだ5月になっていないため、人々は半袖はんそでではない。

 ハジメの家の前に立つ死神しにがみちゃんとマツ。そして、ナオキ。

 チャイムが押され、ハジメが玄関の扉を開く。

九頭竜くずりゅうさん。おはようございます」

 ハジメは、丁寧ていねいにあいさつした。

「おはよう、ハジメ」

 ナオキは、やけにフレンドリーだ。きっちりとしていない服装。メガネの位置を直した。

「なぜ、ぼくの家が?」

「気づいてなかったのか? オレも、この団地に住んでるんだ」

 誤解が解けたのか。そう思ったハジメは、このあと絶望に打ちのめされることになる。

「おはようございます。ハジメさん」

「おはよう、宝田たからだハジメ」

 死神しにがみちゃんの様子がおかしい。マツは普段どおりに見える。いったい何が起こっているのか、男にはわからない。

「お、おい。どうした? 名前で呼ぶなんて。そうか、やっとわかってくれたか」

「違うのよ。いい? 心を平静に保って」

 マツの言葉に、ハジメは首をかしげた。何がなんだかわからない。

「いやぁ。青井あおいユイさんからすべて聞いたよ。ハジメ、お前も大変なんだな」

「誰からだって?」

「だから、青井あおいユイさん」

 ハジメの頭の中で、ひとつの可能性が形になりつつあった。

「もう。ハジメさんったら」

「お、お前かー!」

 やはり、ハジメには何がなんだかわからなかった。


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