第26話 見届ける責任

「負けちゃった。こんな。これじゃ……」

 マツは、くやしがってはいない。悲しんでいた。目から液体があふれだす。

「お、おい」

 さすがのハジメも、言葉に詰まった。なんと言っていいのかわからない。椅子に座ったまま、固まっていた。

 重苦しい空気を変えたのは、死神しにがみちゃんの言葉だった。

「仕方ないですね。決着けっちゃくは、次の勝負しょうぶまで持ち越しにしてあげますよ」

「本当ね。二言にごんはないからね!」

 ツインテールを揺らす死神しにがみちゃんに向けて指をさしたマツの目には、もう涙はなかった。

 ベッドに隣どおしに座るふたりは、仲良しにしか見えない。

 長い髪をかき上げることもなく、マツは死神しにがみちゃんを凝視ぎょうししていた。

「まだやる気なのかよ」

 ハジメは、ため息をついた。

「それじゃあ、次は何で――」

「初心に帰ってじゃんけんはどうかしら?」

「いえ。それはちょっと」

「何? アタシの提案にケチつける気?」

 勝手に話が進もうとしている。ハジメが大声を上げた。

「いや。勝負なら二人だけでやればいいだろ」

 その言葉への返事は、意外というよりは至極当然しごくとうぜんなものだった。ふたりにとっては。

「ダメですよ」

「そうよ」

「え?」

 ハジメにとっては、まったく理解不能りかいふのうな回答。二人だけでできることに、なぜ巻き込まれているのかわからなかった。

師匠ししょうには、見届ける責任があるんです!」

「責任があるのよ!」

「なんの話だよ……」


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