第11話 宝田ハジメの圧力

 ウグイスの鳴き声が聞こえる。

 公園から宝田ハジメの家までは近い。歩いて移動する三人。

 ギャラリーが多かったものの、あとをつけられることはなかった。

 道すがら、死神しにがみちゃんとマツの因縁いんねんについて聞こうと思ったハジメ。すぐにそれを実行に移す。

「それで、二人はどんな関係なんだ?」

「さっき説明したじゃないですか」

「ライバルよ」

 それ以上の説明はなく、三人はハジメの家に着いた。何か言いたそうなハジメの顔はゆがんでいる。気を取り直して、ポケットに手を入れた。

「……それじゃ、入るか」

「おじゃましまーす」

「お邪魔じゃまします」

 鍵を開けたハジメにつづいて、二人も玄関から家の中に入った。

 ハジメが内側から鍵を閉める。


 不穏な雰囲気だった。

 しかし、いきなり争いが始まることもなく、なんとか穏便おんびんにハジメの部屋までたどり着いた三人。

「さて」

 ハジメは、ビデオゲームの準備を始めようとしていた。この部屋ですることは、ほかにない。と、ハジメは思っている。

「第2ラウンドよ」

「ふっ。望むところです」

 ハジメはあわてている。部屋をめちゃめちゃにされたくはない。この状況で言えることはひとつだけ。

「待て。ゲームをしよう」

「そうよ。対戦ゲームをするわ」

「ビデオゲームでも負けませんよ!」

 マツも、死神しにがみちゃんもやる気満々だ。戦う前からバチバチと火花を散らしている。誰にも止めることなどできそうにない雰囲気ふんいきかもしていた。

「ダメだ」

「えっ」

「えー」

 二人は、ほぼ同時にがっかりした。

 ロングヘアもツインテールも、心なしか元気がなさそうに見える。もはや仲がいいのでは。と、ハジメは思った。

「協力プレイだ!」

「わかったわ」

「は、はい」

 有無うむわせぬハジメの圧力あつりょくに、二人はくっした。


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