第10話 認めたくない

「じゃんけんポン!」

「あいこで、しょ!」

「あいこで、しょ!」

「あいこで、しょ!」

 死神しにがみちゃんがじゃんけんで勝った。すぐに構えを変えている。もはや熟練者じゅくれんしゃいきだ。

「あっち向いて」

「ホイ!」

 マツはハジメから見て右を向いている。死神しにがみちゃんの指は下を向いていた。

 死神しにがみちゃんが悔しがる表情を見せたのは一瞬。すぐに次の行動に移っていた。

「じゃんけんポン!」

 またも、死神しにがみちゃんがじゃんけんで勝った。

「あっち向いて」

「ホイ!」

「あ」

「やったー!」

 勝負は死神しにがみちゃんの勝ち。ハジメから見て左を向いたマツと、同じく左をゆびさした死神しにがみちゃんの姿がそこにあった。

「くっ。認めたくないけど、腕を上げたわね」

「何やってんだよ」

 久しぶりにしゃべったハジメ。あきれている。ふうーっと大きく息を吐き出し、いまだ散りつづける桜をちらりと見た。

 二人は、がっしりと握手をすることもなかった。

「それで、このあとですけど」

「どうするの?」

「いや、普通に会話するのかよ」

 ハジメのツッコミが追いつかない。

師匠ししょうの家に行きましょう!」

「だから、師匠ししょうって呼ぶな」

 マツの表情が変わった。ハジメのことを、死神しにがみちゃんが狙っていると思ったようだ。となれば、なんとしても彼を守らなければならない。

「行くわ」

「えっ」

 ハジメは、マツの態度の変化にとまどっている。あまりに突然だ。それ以外に考えることは、集まった大勢のギャラリーのこと。どう収集をつければいいのかわからなかった。

「そうと決めれば、急ぎましょう。師匠ししょう

「だから――」

「面白かったぞ。じょうちゃんたち」

「あんたもすみに置けないねぇ」

 などと、ギャラリーから声が上がった。なんと答えていいのかわからず、ハジメはあやふやな返答をするばかり。

「さあ。行くわよ」

 その様子を、一人の男が遠くから見ていた。


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