第9話 伽藍堂マツ

「意外に人が多いですね」

「だから言ったのに」

 ハジメと死神ちゃんは、近くの公園にいた。ハジメの家がある団地の南側。日当たりのいい場所だ。桜の花が散っている。

掃除そうじする人、大変そうですね」

「ああ。花びらは大変だ」

 何気なく口に出した言葉。しかし、死神しにがみちゃんはハジメのことを本当の掃除屋そうじやだとは思っていない。

 そして、ハジメは本当のことを言っている。両者のあいだには、いまだに深いへだたりがある。

 談笑だんしょうする二人の前に、何者かが現れた。

「ようやく見つけたわ!」

 その人物を見て絶句する死神しにがみちゃん。見覚えがあることは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

 何も言わない少女を見かねて、ハジメが口を開く。

「なんだ? 知り合いか?」

「どうも、はじめまして。アタシは伽藍堂がらんどうマツ。そいつを駆除くじょする者よ」

 すらりとしたやせ型の女性は、風貌ふうぼうに似合わないことを言った。ゆびをさし、ロングヘアをなびかせながら。

「そいつじゃなくて、死神しにがみちゃんって呼んでよ」

くさってもライバル。死神しにがみと呼ばせてもらうわ」

 二人のあいだでバチバチと火花が散った。


「いったい何を始めるつもりなんだ」

勝負しょうぶです」

勝負しょうぶよ」

 二人がほぼ同時に言った。

 死神しにがみちゃんとマツは、あっち向いてホイを始めた。打ち合わせもなく、両者同じような構えをしている。

「こんなに大勢おおぜいの人の前で……」

 ハジメはあきれている。どこかへ身を隠したかった。だが、このままにしておくと何をしでかすかわからない。める義務ぎむがあると、ハジメは考えていた。

「じゃんけんポン!」

「あいこで、しょ!」

 あいこからのじゃんけん。死神しにがみちゃんがグーで、マツがパー。マツの勝ち。

「あっち向いて」

「ホイ!」

 しかし、まだ終わらない。ハジメから見て死神しにがみちゃんは上を向いて、マツは左をゆびさしていた。

「じゃんけんポン!」

 なかなか勝負はつかない。

 桜が舞い散る中、ギャラリーが集まってきた。

「ハァ」

 ため息しか出ないハジメ。真剣な表情の二人とは違って、眉が下がっていた。


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