伽藍堂マツ編

第8話 出かけるふたり

 翌日。日曜日。

 休日なので時間がある。つまり、いそがしいと言って無下むげに断ることが、ハジメにはできない。

 死神しにがみちゃんが、早朝からハジメの家にやってきた。朝ご飯は終わっている。

 チャイムが鳴った。しぶしぶ応答するハジメ。玄関で二人は向き合う。

「今日は、どこかに行きましょう」

「ええー?」

 ハジメは乗り気ではない。いくら死神しにがみちゃんがかわいらしい見た目をしていても、中身はつかみどころのない怪物のようだと思っているからだ。

「おっ。いま、かすかに殺気さっきが」

「わかった。行こう」

 殺気さっきを出すよりは、どこかに行くほうがいいだろうと思ったハジメ。まんまと死神しにがみちゃんのさくにはまってしまった。

「それで、どこへ行きます?」

「決めてないのかよ」

 死神しにがみちゃんは、このあたりの地理に詳しくないらしい。カラスの鳴き声が聞こえた。

修行しゅぎょうといえば、人里離れた山の奥ですけど」

「そんなことするつもりはないぞ」

 ハジメが、当たり前の感想をべた。普通の人は山の奥で修業しゅぎょうをしない。しかも、なんの鍛錬たんれんなのか。ハジメには見当けんとうもつかない。

「じゃあ、どうするんですか」

「自分で考えてくれよ」

 ハジメも、あまり外出しないため地理にうとかった。住んでいる場所なのに。どこに何があるのか、だいたいのことくらいしか知らない。地名にも詳しくない。

「桜も散っていることですし、人がすくなくなった公園に行きましょう!」

「まだ多いと思うけど。まあいいか」

 ハジメと死神しにがみちゃんは、公園へと出かけることになった。


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