第7話 捨て台詞

殺気さっきの出しかたなんて、知らないってば」

 ハジメは、殺気さっきの出しかたがわからない。出そうとしても出せるものではないのかもしれない。多くの人がそうであるように。

 イスに座っているハジメのもとに、ベッドから降りた死神しにがみちゃんが迫ってきた。ツインテールを揺らし、胸の前で両手をにぎりしめている。

「どうすれば怒るんですか、師匠ししょうは」

「だから、師匠ししょうって呼ぶな」

 怒りが芽生えそうなことを自覚したハジメ。深呼吸をして気持ちを静めた。それを、死神しにがみちゃんは見逃さない。

「む。いまじゃっかん殺気さっきの気配が」

「むむ?」

 男は、なんらかの事象じしょう察知さっちした。よくないことだ。そのため、身構えることができた。わかっていれば、ダメージはすくない。

師匠ししょう!」

「そうはいくか」

 静かな心持ちで怒りをおさえたハジメ。

 死神しにがみちゃんは、悲しそうな表情になったあとでうつむき、顔を上げた。今度は、歯を食いしばって目に力が入っている。

「ぐぬぬ。明日また来ます! カクゴしてください!」

 台詞ぜりふをはいて、死神しにがみちゃんは帰っていった。玄関から。

 とうぜん、ハジメもあとを追い、部屋から出ている。

「なんなんだろうな。本当。この状況」

 姿が見えなくなるまで見送ることもせず、ハジメは玄関の扉を閉めた。このあとに起こる波乱のことなどよしもなく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る