第5話 舞い散る花びら

 まちを歩くハジメと死神しにがみちゃん。

 お手頃価格てごろかかくの定食を、安価で営業時間の長いレストランで食べた二人。身体からだを休めることなく移動していた。

 舞い散る桜の花びら。そろそろ季節が一段階進もうとしている。

「どこへ行くんですか? 師匠ししょう

師匠ししょうって呼ぶな。どこって言われてもなぁ」

 ハジメはかねがない。掃除専門そうじせんもん業者ぎょうしゃではなく、とある施設しせつ掃除そうじをしているため給料が安いのだ。遊園地ゆうえんちで遊ぶ選択はできなかった。

「わかりました!」

「何がだよ」

まちを歩きながら、片っ端からやっつけていくんですね!」

 死神しにがみちゃんは、シャドーボクシングのようなポーズをしていた。それを見ている男は、いたって冷静。

「なんの話だ。そんなことしない」

 やはり、二人の会話はかみ合わない。

「しょぼーん」

「うちに来るか? お茶も出ないけど」

「行きます!」

 元気よく答えた死神ちゃん。しかし、すぐにこれはおうちデートでは? という思いに至る。

 言葉にしてしまうと、断られるかもしれない。必死に口をつぐむ死神ちゃん。その姿は滑稽こっけいに見えた。

「なんだ? 変なヤツだな」


「おじゃましまーす」

 死神ちゃんが元気に宣言した。

 ハジメの家。一戸建いっこだて。中はあまりきれいではない。

掃除そうじが仕事なのに、って思っただろ?」

「思ってないですよ。掃除そうじって、そっちじゃないでしょ?」

「はぁ?」

 どうにも、二人の会話はかみ合わない。死神しにがみちゃんは、ハジメのことを誤解しているフシがある。

「あの。ご両親は。アイサツしないと」

「なんでだよ。いないぞ。もう」

 察した死神しにがみちゃん。うっすらと目に涙をためている。

「……」

 死神しにがみちゃんに人を気遣きづかう心があることに、ハジメは驚いた。言葉にはしない。そして、別のことを口にする。

「とりあえず、ゲームでもするか。というかほかに何もないし。……の前に、歯磨きだな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る