第3話 おごり

 昼ご飯を買いに出かけようとするハジメ。

 そこに、当然のように自称死神じしょうしにがみちゃんが現れた。彼女は、中肉中背ちゅうにくちゅうぜいのハジメよりも背が低い。

 朝ご飯の前に姿を消したはずの少女の再来に、ハジメは恐怖した。ずっと家の前にいたのではないか、と。

「なんでいるんだよ」

「どこに行くんですか?」

「昼ご飯だよ」

「はい! わたしも!」

 頭を抱えるハジメ。対照的たいしょうてきに、少女は満面まんめんみ。安っぽい服装の男の気持ちなど、まるでわかっていないようだ。

「一人にしてくれ」

「イヤです」

「あのなあ……」

「ん?」

 不思議そうな表情の死神しにがみちゃん。かわいらしい普段着のせいで、実年齢じつねんれいよりもすこしおさなく見える。その後も、かみ合わない会話がつづいた。

 死神しにがみちゃんは押しが強い。

 結局、二人で昼食を食べることになってしまった。

 ハジメは機嫌きげんが悪い。


「それで?」

「はい?」

 椅子に座っている死神しにがみちゃんは、なんの話題なのかわからない様子。同じテーブルを囲んでいるハジメが、さらにつづける。

「ここの代金、本当に払ってくれるんだろうな?」

「もちろんですよ!」

 死神しにがみちゃんの声は震えていた。なぜなのか、ハジメには理解できない。

 じつは、死神しにがみちゃんはハジメの殺気さっきに感動していたのだ。

 彼女は、殺気さっきを感じ取ることができる。

 自分もこんなふうになりたいと思っている。だが、それを言葉にはしなかった。ただ、あこがれのまなざしで見つめるだけ。

 いぶかしがるハジメ。

「……」

 しかし、ハジメも何も言わなかった。ただ、ため息をらした。


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