第3話 日常(ひにちじょう)は非日常(にちじょう)へと還る、物語で言うなれば転。

 彼女に連れられ、学校近くの駅前に。

わざわざ描写するでもない、まるで日常系アニメかのような、仲良くなった女の子と出かけるなどという日常(ひにちじょう)を過ごす。

「クレーンゲームあるじゃん、わ、ケロ太いる!取る!!………取れないんだけどー!」

「貸してみ、このタイプなら…こうか、取れたよ」

「すご!?!?ありがとう!!大事にするね!!今日から君は、●●●だ!」

「なんで僕の名前知ってるの!?」

「だから同クラじゃん!!」

 ひとしきり彼女に連れ回されて遊んだ後、2人ともお腹が空いたのでファストフード店へ。お互い注文を済ませて席に着く。

「でね、〇〇ちゃんがね、~でさぁ、すごかったの!」

「〇〇君はね、~でね、…」

僕の知ろうともしなかったクラスメート達の人柄やクラスで起きた愉快なイベントたちを彼女が僕に語る。なんだ、僕が思っていたより彼らも良い人だったんだ。

…そう思い始めながら彼女の話を聴く。

なんで彼女がこんなに優しく、急にしてくれたのかはわからない。

何かウラがあるのかもしれない。

そんな普段なら真っ先に思い付くことも浮かばずに、この不自然な日常(ひにちじょう)の違和感に、浮かれていた僕はまだ気付かなかった。

「あれーさくら珍しい、ツレいるじゃん。ん?その地味男誰?彼氏?なワケないか。あ、そうそう今からカラオケ行くけどさくらも来るー?」

 突然横合いから声がして振り向くと僕と同じ制服を来た男子高校生が彼女に声をかけた。

そしてその男の発言に、周りにいる僕と同じ制服を来た男子高校生や彼女と同じ制服を来た女子高生が大きな笑い声ヲアゲル。

平静を装うとする僕の思いとは裏腹に鼓動が速く強くなってゆく。彼女が彼らに何かを言っている。僕のことをよく言ってくれているみたいだ。でもそんなのどうでもいい。

こちらを横目に、彼女が何事かを気付き焦ったような表情を浮かべる。

まるで何かに怯えるように。

そうだよな、僕なんかの相手するのなんか彼女には役不足だそもそもなんで昨日初めて話した彼女が僕に優しく接するんだそんな理由どこにもないいやもしかしたらあるのかもしれない僕の考え及んでいない打算でもあって僕を騙そうとしてたのかもしれないそうに違いない違うかもそんなのどうでもいいなんでもいいどうでもいいやっぱり僕には1人がお似合いだ。

重く捉え過ぎだ、彼女は優しいからそんなこと思ってない、僕の頭の片隅にそんな考えも浮かぶがすぐに悪い考えに覆われ消えてゆく。

耐えられなくなって、気付いたら僕は駆け出してその場から離れていた。

 ―彼女の僕を呼ぶ声が遠くに聞こえた気がした。でも僕は無視して走って走って走った。

目尻から流れるモノが、とても熱かった。

そして僕のたった1日も無い日常(ひにちじょう)は、日常となんて呼べないつまらなくて暗い、とても慣れ親しんだ非日常(にちじょう)へと還った。

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