A
@Yoyodyne
第1話
病室の窓側のベッドの上で様々な機器と輸液パックに繋がれた自分の姿を天井付近で浮きながら見下ろす。青白い病衣に痩せこけシワの寄った皮膚に覆われた顔と胸。髪の毛は剃り尽くされ目を細めるとグレイにしか見えない。目が閉じられ微動だにしないため一見死んでいるようだが、左側で寄り添い私の肉体を見つめる心電図の動きでかろうじて生命活動を維持していることがわかる。四肢はそれぞれ四半世紀に一回どこかのタイミングで失っていった。ここから移動することはどうやらできないみたいだ。幽体の私は五体満足だけれども幾らもがいて手足を振り回してもそれらは虚しく空を切るだけの無力なお飾りでこの状態になってからずっとここに貼り付けにされたままだった。できることがあまりに限られているため暇つぶしに永い歳月の中で摩耗しディテールと前後関係が怪しくなったメモワールに思いを馳せる。そのメモワールは忘れているとかでなく自分の人生に関係ない(もしかしたら前世や別の世界線の私のものかもしれない)としか言えないイメージまで呼び起こしてくる。それらが交差し融即してチリと埃と霧の中に崩れさる。彼の肉体は生まれた時から全身不随でいつの間にかこの病棟の片隅にぽつねんとこの病院で使用している規格化されたものとは異なるベッドと共にそこにいた。
四肢には義肢がつけられるはずはないが一度看護師たちの気まぐれで装着されたことがあるのを思い出した。なぜそれを知ることができるのだろうか?視覚は機能してないも同然だが他の知覚が辛うじて拾ったのかもしれない。義足の形態を知らなかったがその用途と概略はいつの間にか覚え込んでいた。自分の思い描いてる完全な姿は人間存在からかけ離れたものかもしれないけれど確認することが叶わない事実の整合性を思い悩むのは杞憂に他ならないだろう。
━━━右足
━━産まれた時
ナレーション:彼の出生は謎に包まれている。彼自身にすら良くわかっていない。思春期前期のような良く言えば純粋で悪く言えば幼稚なタイプの神秘をまとった謎だ。他にすることもない。そのヴェールを読者をほかっといて一つずつ剥いでいこう。看護師からすれば
━━
━━━右腕
━━ネオンとEDMのうねりの中で
━━━左腕
━━タコイエ
━━━ペニス
悪魔のガキどもは上下に一つづつモニターの付いた折りたたみ式の電子機器から飛び出して来て頭の回りをブンブン飛び回ってから私に躍りかかりボロ雑巾のようにした後尻穴に腕を突っ込んで来て尻子玉を引き抜いていった。
クレジットカードを挿入することで起動する定型文しか発しない精巧なラブドール。
ゼンマイ仕掛けの女にストーキングされる。
そぞろ歩き
A @Yoyodyne
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