第6話

そうして私達の結婚式が始まった。

いつかの日のような綺麗な青空。

控え室でお化粧をして髪を結ってもらい、それからドレスに着替えて新郎の蒼志が来るのを待っていた。

なんて言われるだろう?

褒めてくれるかな?

さっきからソワソワして落ち着かない。

大きなドレッサーで全身を確認するのもこれで12回目。

お腹…あまり目立たないドレスにしてるけどちょっとだけ目立ってしまう。

でもちゃんと響もいるって思えて安心する。

お腹を撫でて話しかける。

「響、やっとパパと家族になれるね。皆んなで幸せになれるね。」

これからの事や響にしてあげたい事を話していた。

今まで泣いた日の方が多かったけれど、こんなに幸せならそれでも良かったのかも知れない。

蒼志と会えた。

出会えることができてこうして結婚できるんだから。

そう、幸せだった。


その時コンコンという軽いノックの音。

やっと新郎のお出ましのようだ。

「蒼志遅かったね。」

笑顔でドアを開けるとそこにはママが居た。

蒼志じゃ無かったけれどママが来てくれた…

嬉しい…ママがそこにいる!

私は喜んで来客用の椅子に案内しようと思うけど笑えない。

案内ができない。

お腹が痛くて動けない。

真っ白なドレスに赤いシミがどんどん広がっていく。

あ、れ?

私のお腹には大きめの包丁が刺さっていて。

刺さっていて、ママが怖い顔をして立っている。

膝から崩れ落ちる。

痛い。痛い。痛い。

違う…今度は間違えちゃいけない。

赤ちゃん。私の赤ちゃん!

「マ…ママ、救急…しゃ…。」

ママが何か叫んでいる。

「私の…に!……あの男は……愛した!……!!」

「マ、マきゅ…、呼んで。赤ちゃ……また。」

なるべく冷静になって、深く深呼吸して、ママにもう一度お願いしようとした時―


「そんな子供死ねばいいのよ!汚らわしい!!

実の親とまぐわうなんて気持ち悪い!

なんであんたみたいなのが産まれてきたのよ!」

ママがそう言って私のお腹の包丁を抜いてまた深々と刺した。

何度も。何度も。

「赤ちゃん、が、泣いちゃ、う。ママ、救…。」

ああ、また救えなかった。

これで2回も響を救えなかった。

お母さん失格だよね。

でもね、今度は私も最後まで一緒に痛い思いしてあげるから。

ずっとそばにいてあげるからね。

ごめんね響。


…そういえば…私って蒼志に…一度も好きって、愛してるって言ったこと…無かったけ…?

一度くらい…ちゃんといえば良かった…な。

ごめんね…ちゃんと…言葉で伝えることが…できなくて。

蒼志…愛してる…




一週間後、日菜の遺体が返ってきた。

腹の中の響きと共に。

葬儀は家族葬という形にした。

俺のせいで2人は死ぬ羽目になった。

あいつがそこまで狂っている事は知ってたはずなのに、真実を告げると日菜が避けて逃げるんじゃ無いかと不安になり、俺は何も言えなかった。

俺が2人を殺してしまった。


今日も雲一つない青空が広がっている。

「雨だったら、泣けたんだけどな。」

空を見上げて、紫煙をくゆらせる。

大丈夫だよ。

お前たちだけに寂しい思いはさせないから。

ずっと辞めていたタバコだった。

もう気兼ねなく吸ってもいいのだが

「どうせ吸うならそこでだろ。」

俺はいつも日菜の指定席だった場所に向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る