第5話

蒼志は学校をクビになってから、臨時で塾や家庭教師の先生をして次の仕事を探していた。

式は小規模で簡単なものにする予定だったけど、ドレスとかはちゃんと用意してくれたりしてて、小さな教会も押さえていた。

ドレスはお腹が目立たないものを選んで、似合ってるだとか照れ臭いとか言いながらも何枚かスマホで写真を撮ったりして、それをお互いにロック画面にしたりして忙しいながらも楽しくてずっと笑ってる日々が続いていた。


お腹の子は女の子だった。

私は男の子だったら響の生まれ変わりかもしれないと思ってたんだけれど、蒼志はきっと女の子でも響だよって言ってくれて、まだ産まれてないけれど名前はやっぱり響にする事にした。


ママに、子供のことも結婚のことも直接報告したかったんだけれども、蒼志から報告してくれた。

結婚式に来てくれる事になっている。


ママから電話が掛かってきた時は、ちょっとビックリしたけれど心から祝ってくれているって事を聞いて嬉しくて泣いてしまった。

今まで聞いたことがないような優しい声で慰めてくれて産まれてきたことに初めて感謝した。


みんなに祝福してもらって結婚できて、産まれてくる赤ちゃんも皆んなが可愛がってくれるだろうから、私も一生懸命にお母さんをして…


あれ?

お母さんって何をすればいいんだろうか?

今までママにしてきてもらった事…


あ、そうか!

今までママにしてきてもらった事をすればいいんだ。

そうか、そうすればいいんだ!

…響楽しみにしててね。

ママがいっぱい可愛がってあげるからね。

早く産まれてきてね。

私の可愛い赤ちゃん。






母親の独白


子供は女の子だった。

本当は男の子。

あの人に似た男の子が良かった。

そしたらずっと手元に置いて可愛がってあげたのに。

女の子だと分かった途端に、訳のわからない怒りが込み上げてきて、大きな腹を殴るようになった。

痛い。これでは私が痛い。

きっとこの子には届いてないはずだ。

それが死ぬほど憎らしい。

私は事あるごとに腹を殴り続けた。

お腹は痣だらけだった。

死ぬような思いをして産んでみれば可愛げのかけらもない不細工な顔。

産まれた子供には興味はない。

もう一度、今度は男の子。

そう思って実際に男の子を産むことができたんだけど…

…こんなに可愛い子だって分かってたら、あんな不細工を産むんじゃ無かった。

ああ、可愛い私の蒼志。

この子さえいれば何もいらない。





ある母親の独白 2


忘れることなんてできない。

その子は一際美しかった。

愛される為に産まれてきたような眩しい笑顔。

大きな瞳、端正な顔立ち愛らしい唇。

誰も彼も無視することなんてできないだろう。

だから私だけのものにする。

それだけの話。

方法なんて簡単な話。

まだ幼いんだから。

彼の子を。

真面目だもの。

上手くいくはず。

誰にも渡さない。

絶対に誰にも。

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