第4話

あの日、あの母親の男にハメられたフリをした。

学校に掛かってきた電話の内容を聞いて、救い出すなら今しかないと気付いた。


母親は日菜に特殊な執着をしていて手放す気はない。

あの時、状況を考えると男だけだった可能性が高かったので、

全ての罪を引き受ける代わりに日菜を連れて帰ることに成功した。

やっと日菜を本当に取り戻す事に成功した。

後は一区切りついた時にうまく日菜を説得して、あの母親の前から姿をくらませるだけだ。


ここに至るまで散々苦労した。

あらゆる妨害を受けてきた。

一部の隙も無く、心が折れそうになった時もあった。

だからこのチャンスを逃す手は無かった。

なるべく急いで終わらせないといけない。


俺たちはすぐに一度俺のマンションに戻り、

手持ちの荷物を置いてから早速日用品などを買いに出かけた。

そしてその足で役所に向かう事にした。


「蒼志?なんで区役所に来たの?」

日菜は全く状況が分かっていなかったので、俺たちが結婚するのには役所で手続きが必要なんだ。という説明をした。

日菜は俯いて顔を赤くして

「うん。うん。」

と説明を聞いていた。

そして大事な事を、備え付けのソファーに腰をかけながら静かに話し始めた。


「日菜。」

「うん。」

まだ少し顔が赤い。照れているのだろうか?

「日菜のお腹の中の赤ちゃんだけどな…」

「…」

日菜はまだ堕すのかもしれないと考えているのか、体が硬直して表情も固まっている。


「私産みたいの…」

「それは分かってるよ。その子は産んでいいよ。」

「良かった…また殺さなきゃいけないのかと思った…」

「違うよ、その子…その子達の本当の父親は黙ってような。

2人とも俺の子だ。」

「え?」

日菜はきょとんとしている。

「この前、この子達のパパは蒼志になったのになんで?」

と聞いてきた。


どう説明したものかと考えていたが、

「法律の上でも俺がちゃんとした父親だって手続きをしようって相談だよ?」

と適当に誤魔化した。


DNA検査でもしない限りそう子供の親権に関しては揉めるような事にはならない。

ただ、今回役所に来たのは婚姻届が目的では無い。

婚姻届だと勘違いさせるために少し混乱させる目的もある。


「そっかぁー。この子達も喜ぶからそうしてくれたら嬉しいな。」

日菜は疑うことなく俺の意見に賛成してくれた。

日菜にバレることはほぼ無い。

ただ、俺の心が痛むだけ。

真実はまだ話せない。

だから役所から出る時に日菜が嬉しそうに

「これで私は結婚して、赤ちゃんも私も蒼志のちゃんとした家族になったんだね。」

そう言われた時は流石に顔を見ることができなかった。



…俺と日菜が家族になる。

まさかそんな日が来るとは思わなかった。

今まで俺は家族というものにあまり縁は無く、これからもそういうものと縁することは無いだろうと思っていた。

でもまさかこんな未来が訪れることになるとは…

降って湧いた幸せを噛み締める。

ただ、本当にこれでいいのだろうかという罪悪感。

いや、日菜を守るためならこれでいいはずだ。

そう自分に言い聞かせ、これからこの家族を守るためならなんでもする。

そう固く決意した。





蒼志の顔は時々険しかった。

私と結婚するのが嫌なのかな?

私の赤ちゃん達のパパになるのが嫌なのかな?

時々そんな不安に襲われてた。

でも、最後に2人の結婚指輪を買いに行く頃には優しい笑顔になっていた。

暖かい瞳。

見ている私まで幸せで優しい気持ちになってくる。

指輪はあまり飾りが無いものを勧められたが、可愛い方がいいって我儘を言って、ハートの形の石の指輪を買ってもらった。

「ちゃんとした指輪は、簡単な式をあげる時に買おうか。」

って言っていたけど、ちゃんとした指輪って何だろう?

この指輪偽物なの?って聞いたら笑っていた。

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