強盗

すみはし

強盗

目の前に彼女は横たわっていた。

今日までの出張の間に何があったのか。

何回瞬きしても、目をこすっても、愛した彼女が無残な姿で転がっている。


目をそむけたくなるような状態の彼女。

服は乱れ、髪もボロボロに、手足はあらぬ方を向き、頭は割れ、目は飛び出していた。

私は涙交じりの小さいため息を吐いた。


感情の整理が追い付かないまま状況だけは自分の中で組み立てられていく。

きっと強盗なのだろうと推測する。

玄関のかぎがこじ開けられ、ありとあらゆる収納は荒らされ、金になりそうなものがなくなっている。

さして金になりそうなものはなく、犯人は窓を開けて逃げていったのだろう。


おかげで部屋の中はボロボロ、風通しは寒くなるほど強い。

幸いにも印鑑や通帳は見つかっておらず、趣味で飾っていた時計が数本盗られていた程度だ。


この部屋については大家さんに至急連絡して窓やらなにやらの手続きをしなければならないだろう。


この状況にとにかく悲しくなった私は今はただ、どうすることもできず、冷たい彼女の手を取った。

足はほぼ反対方向を向き、きれいだった薄茶色の目はむごたらしく飛び出し転がっていた。


私はそっと彼女を抱きしめて、ゆっくり足を本来の向きに戻し、服を整え、真っ二つになった頭を開き、転がった眼球をはめ込み、シリコンキャップを付けなおし、きれいなブロンドヘアを手櫛で整えた。


彼女は前と変わらない笑顔で私を見つめていた。

部屋の大掃除や大家さんとのやり取りが終われば、きちんとメンテナンスして、元のようにかわいい彼女に戻そうと誓った。

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強盗 すみはし @sumikko0020

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