第4話 異世界へ行ってみたいか〜!

 きれいに俺のドロップキックが決まった親父は吹っ飛んでいった。


 一面真っ白なこの狭間の世界に果てがあるのかわからないが、親父には、星の彼方まで飛んでいってほしい。


「また、つまらない物を蹴っ飛ばしてしまった」

「あ〜あ、やっぱりこうなりましたか・・・」


 無事に着地した俺。

 額に手を置いてつぶやくエルザさん。


「ところで、あれは本当に親父なんですか?」

 確信を持ってドロップキックをかましたが、間違いだったら大変だ。

 でも、俺のこと久しぶりと言っていたし。


「ハイ。間違いなくあの方はあなたの父親の七星ガンテツ様です」

「・・・様?いやいや、うちの親父はただのトラックドライバーですよ」

「地球ではそうでしたけど、あの方は女神の眷属です。地球的にいうと副支店長です。」

「は?いやいや・・・マジで?」

「マジで」

 なんと親父は大出世していた。


 家にいる時の親父は、酒を飲んでいるか、横になって昼寝しているか。そんなイメージしかない。決して様付けで呼ばれる人物ではない。


「えっと。エルザさんはそんな副社長に二度もツッコミを入れたと・・・」

「あなたも見事なドロップキックをかましましたよね?」

「俺は親父に積もる思いがありましたので、つい・・・」

「まぁ、私もスッキリしました。これでゆっくりお話ができますね」

「・・・そうですね。お願いします」


 そうしてエルザさんはこの世界のことを話し始めた。


 ここ狭間の世界は、先述した通り地球で死んだ人の魂が行き着く場所。

 魂はここを経由して様々な世界に転生されるらしい。転生される世界は無数にあり、エルザさんと親父はアトランティスという世界を担当しているという。


 アトランティスは女神ディナール スペースが管理する世界で、親父はディナールの眷属、つまり部下ということだ


「いくつもある転生される世界は、我々のような担当がいまして、本来は勝手に振り分けられるのですが、ワタルさんの魂はガンテツ様の権限でお話できるように呼び寄せました」


「なんかラノベの設定みたいですね。世界のことは大体わかりましたが、なぜ俺だけ呼ばれたんですか?本来はだめなんですよね?」

「ガンテツ様の職権乱用です」

 なんとも親父らしい理由だった。


「ふぅ〜なかなか良いご挨拶だったじゃねーかワタル」

「復活しやがったか親父」

 いつの間にか、真っ白なローブに俺の足跡が付いた親父が側に立っていた。


「こっからは俺が説明するぜエルザ」

「そうですね。あなたのことはご自分でおっしゃった方がよろしいかと」

 親父は親指を立てて、自信満々に答える。


「ゴホン!まずは、苦労をかけたなワタル。ハルカのことも感謝している」

「それはどうでもいい。なぜ俺達の前から消えたんだ。理由によってはまたドロップキックを食らわす!」

 俺は怒気を込めて睨みつけた。


「そう怒るなワタル。ちゃんと説明してやるから。それはな・・・俺が勇者だったからだ!どうだ驚いたろ?」

「よし。そこを動くな。今から助走をつける」

 ぐっと足に力を込め、ドロップキックの体制とる。


「端折りすぎですガンテツ様」

「待て待て!分かった。キチンと説明する」

「ふぅ〜。よし。初めから、キチンと、順序だてて、分かりやすく説明してくれ」


 それから親父が語る壮大な物語を、時にはエルザさんが、時には俺が質問して理解していった。

 大まかにまとめると次の通り。


 1 親父は本当にアトランティスの勇者だった。


 2 俺が生まれる前に転生して、女神や仲間とともに黒の妖精と呼ばれる親玉を倒した。

 それが今から100年くらい前の話。


 3 黒の妖精を倒した褒美に地球に戻ることを許される。ただし20年の期限付きで、それが過ぎたら女神の部下になることが条件。


 4 何も言わずに失踪したのは、女神に口止めされていたから


「ちょっと待て。今から100前って親父は何歳なんだ?」

「あーその辺の事は良くわからんが、アトランティスと地球では時間の流れが違うんだ。」

「本当にガンテツ様は、100前にアトランティスを救った勇者です。地球に戻られたのは25歳の時です」

 エルザさんが言うからには親父は勇者だったのだろう。


「まぁそれは良いとして。お前はアトランティスに転生させることにしたから。どうせ死んだんだ。新しい人生を楽しめ!」

「おい、おい。人の人生を勝手に決めるな!」

「俺は魂の行方を決める権限を持ってるんだ。そんじゃ異世界に行ってこい!」

 なに勝手に決めてんだ!ふざけるな!

 また、俺を振り回すつもりか!


 ボソッ

「エルザ打ち合わせ通りにやるぞ」

「特別ボーナス貰いますからね」

「せーの!」


「異世界に行きたいかー!」「・・・たいか〜」

 高らかに腕を上げて言う親父に向けて、走り出した俺。

 ドロップキックをした体制のまま、体が光りに包まれ消えて行った。


 こうして俺は異世界に飛ばされたのであった。























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