第8話 今の世界

「さぁ、作戦通りにいくぞ!」


俺は、ミミとリスナー達に声を掛ける。

緊張しながらも、ミミは小さく頷き、

リスナー達は……相変わらず騒がしく、

それぞれが返事をするせいでコメントが高速で流れていく。

ミミちゃんは俺の嫁!ミミちゃんは可愛い!

とかいう、今言うことじゃないことまで流れていた。


おい、俺のことも褒めろよ。

……いや、今そんな余計なことはどうでもいい、無視しよう。


俺はプリズムを発動させ、吸収でミミに効果を移すと、

彼女は十数人に分身する。

それを確認してから、念のため、

すぐにインビジブルと忍び足を発動し、吸収させた。

徐々に本体も分身も見えなくなっていく。


プリズムは本体が受けた影響も反映されるため、

ケガをしたり服が破れたりしていても問題はない。

ちなみに実体はないが、熱は持っているため、

体温感知のあるドラゴンとは相性がいい。


これで準備は整った。

あとは俺次第だな。


「じゃあ、作戦開始だ!」


俺は隠れていた岩陰から姿を現し、

ドラゴンと対峙する。

視線を合わせたまま、お互いに微動だにしない。

変わらずグルルル……と低い唸り声をあげているドラゴンは、

俺の出方を伺っているようにも見えた。


姿を見せても何もしてこない…

やはりこのドラゴンは他のモンスターとは違う。

ここはとにかく作戦通りに時間稼ぎをする!


「なぁ、お前は人の言葉が理解出来る奴か?

 ドラゴンは知能が高い個体もいるって漫画やアニメじゃ

 相場が決まってるからな。

 お前はどうなんだ?」


ドラゴンは変わらず俺を見つめたまま、

低い唸り声をあげている。


「俺は余計な争いはしたくない。

 もし、このまま俺たちを見逃してくれるなら

 素直に立ち去ろう。

 お前に危害は加えないし、

 ギルド…って言っても、わからないかもしれないが

 討伐隊の派遣も辞めるように交渉する」


まぁ、その場合このダンジョンは立ち入り禁止になるだろうが、

背に腹は代えられない。

天井から現れたドラゴンなんて明らかに異常だ。

そんな異常なモンスターの討伐のために

わざわざ犠牲なんか出さなくていいんだ。


辺りにはドラゴンの唸り声だけが響く。

視線は俺に向けられたまま、

どこか品定めされているようにも感じた。


空気が張り詰める中、反応を待つ十数秒の時間が、

とてつもなく長く感じた。

そして俺が、ダメか…と諦めかけた瞬間、


『我は、見極めしモノ…』


重く威厳のある声が響く。


「……!?」


言葉が通じるかもしれない、とは思っていたものの

返事が返って来るとは思っておらず驚きを隠せなかった。


「見極めしモノ……?」


聞き慣れない言葉に、俺は聞き返す。


『この世の真実、または人間のあるべき姿、力……

 それらを知り、受け入れ、神の器へと近付く可能性のある者の能力を見極め、

 導き、昇華させる。

 それが我の役目だ』


この世の真実?人間のあるべき姿?

コイツは何を言ってるんだ?


俺は混乱する頭で、辛うじてわかった単語のみで

質問を投げかける。


「つまり、神様になれそうな優秀な奴を探してるってことか?」


少しでも情報を得たい。

その一心で混乱する頭で言葉を紡ぐ。


『貴様らでも、わかりやすく言うのであれば

 その解釈でも差し支えないだろう。

 そして貴様は選ばれた』


俺が?選ばれた?

その神候補に?


「なに冗談言ってやがる!

 俺はどこにでもいるただの人間だぞ!!」


嫌な予感が全身を駆け巡る。

こういう時の俺の予感は当たる。

俺はその不安を打ち消すように声を荒げる。


『そうか。

 貴様らはまだ気付いていないのだな。

 人間どもが言う【能力】と呼ばれるモノ。

 それは古の神から与えられた【ギフト】だ』


俺は、ドラゴンの言葉を聞きながら

気持ちを抑えるのに必死になっていた。


『今、この世界に存在する神は【邪神】と呼ばれる存在。

 古より存在する神を欺き、とある【邪法】を使った。

 それにより、この世界の表と裏は入れ替えられ、

 神は弱体化、世界は乗っ取られた』


あまりにも現実味のない話を聞かされ、

俺は言葉を失った。


『弱体化した神の代わりに、

 神に成りえる存在へ、ギフトを与え、

 我らが見極め、導く。

 それがこの世界を終焉から救う方法なのだ』


世界の終焉!?

このままだとこの世界が滅びるということか……?


『本来、全ての人間がギフトを受け取れるのだが、

 どうやら邪法により、この世界の理が書き換えられてしまったようだ。

 下手をすれば、ギフトがない者は邪神の傀儡となる可能性もある。

 念頭に置いておくといい』


俺の頭はオーバーヒート寸前だった。

邪神?邪法?なんだそれ……

それに能力…ギフトがない奴は敵になるかもしれないってことか?

訳わかんねぇ……


俺がぐるぐると考えていると、


『これでわかっただろう。

 貴様が我に認められなければ、

 この世界は終焉へと向かう。

 それが嫌ならば、我にその力を示せ』


そう言うとドラゴンは大きく咆哮する。


「くっそ!考えさせてもくれねぇのかよ!!

 仕方ねぇ!

 時間も稼げたんだ、やってやる!!」


俺は覚悟を決めて

混乱する頭のまま、ドラゴンを睨みつけた。

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