第7話 決意

「嘘…ですよね…?

 ドラゴンなんて……

 こ、こんなモンスター出たなんて聞いたこともないのに……」


恐怖で言葉を失い、震えていたミミが

我に返り、泣きそうになりながら言葉を絞り出す。


「ミミ、落ち着け!

 とりあえず、インビジブルや忍び足は発動させた。

 コイツを俺らが仕留めるのは無理だし、一旦ギルドに報告に戻るぞ」


ミミの両肩に手を置き、話しかける。

彼女は今にも溢れ出しそうな涙を堪えながら、小さく頷いた。

俺とミミは、上から落下し伏せたままのドラゴンから目を離さないよう後退りしながら、

少しずつ距離を取っていく。


今は唸っているだけだが、いつ動き出すかもわからない。

先ほどとは、比べ物にならない緊張感が、俺とミミの身体を強張らせる。

ふとスマホに目を落とすと、


(マジモンのドラゴンだとしたら、人間じゃ太刀打ちできないよな…?)

(でも!マサトの隠密能力なら何とかなるんじゃない?今までもそうだったし!)

(いや…考えてもみろ。ドラゴンなんて伝説生物が、

 そこらのモンスターと同じわけない…)

(危険度ランク的には、確実にSランクだろうな)

(それって…無理ゲーってことじゃ……?)


そんな絶望に満ちたコメントで埋め尽くされていた。


危険度Sランクの化け物なんて、そうそう出てくるモノではない。

もし、このドラゴンがSランク指定されるのであれば、

二体目のSランクモンスターとなる。


過去に一度だけSランクと認定されたモンスターは、無事討伐されたようなのだが、

詳細なことは、ギルドで閲覧できる【高ランクモンスター討伐報告書】や、

特定班の住むネットにも載っておらず、

スクープ大好きマスコミすら報道していないため、

様々な噂、考察、憶測、が飛び交っている。


「まぁ、正直…コイツが本当にSランクなら、

 情報を隠したくなる気持ちがわかるわ……

 余計な恐怖心を与えないためとか、

 Sランクモンスターを崇拝する教団みたいなのが出てこないようにとかな。

 それだけの圧がコイツにはある……」


俺は額に大量の汗を浮かべながら話す。

逃走ルートの確保や、状況の整理をしようと視線や思考を巡らせるが、

恐怖心とドラゴンの圧倒的なプレッシャーによって、

俺は今、正常な判断が出来ているのか?と不安にすらなる。


思考がぐるぐると定まらないまま、

俺とミミはセーフゾーンだった場所を抜ける。


それと同時に、伏せたままだったドラゴンが上体を起こす。

視線は未だにこちらを向き、何かを見定めているようにさえ感じる。

その様子に俺は違和感を覚えた。


「そうだ……

 なぜヤツの視線が外れない?

 俺たちは忍び足とインビジブルのスキルを使っていて、姿も音もないはず……」


極度の緊張と、ドラゴンからのプレッシャーの中、

それでも働かせ続けた疲弊しきった頭を、さらに回転させる。

ミミの命も掛かっている今、疲れたなんて言っている場合ではない。


「……体温感知か!?」


高温のブレスを吐くんだから、体温感知くらいできてもおかしくはない。

ここはダンジョン内、そしてさっきドラゴンが落ちて来たことで砂埃などが舞い、

空気も動いた後だ、気配感知やニオイ感知なら大体の方向はわかっても

こんなにピンポイントでわかるわけがない。


「体温感知だとしたら厄介だな……

 岩陰に隠れながら移動するとしても、

 どうしてもどこかで姿を出さなきゃいけない」


天井から落ちて来た岩の間を縫うように移動しても、

来た通路に戻るまでにはどうしても姿が見えてしまう。


(なぁ……ミミちゃんの能力って何なの?)


そんな時に、ふとリスナーからの質問が飛ぶ。


(確かに、ミミちゃんの能力次第ではこの状況妥協できないか?)

(ギルドからの依頼で組むくらいだから、相性はいいんでしょ?)


次々とコメントでミミの能力に対する質問が飛んでくる。

ミミの方を見ると俯いてしまっていた。


俺もミミの気持ちを考えると躊躇してしまう。

だけど……!!


「ミミ……やろう!」


俺はミミに声を掛ける。

その言葉に驚いて、俯いていた顔を上げミミはこちらを見る。


「今までのことを考えると

 確かに怖いし不安かもしれない。

 でも俺が保証する!

 ミミの能力は強い!!

 それは事実だ、誰にも文句は言わせねぇ!

 アイツがこのまますんなり

 俺たちを逃がしてくれるかもわからない今、

 ミミの力が必要なんだ!!」


彼女は静かに俺の言葉を聞きながら

また涙を溜めている。


「それに、俺のリスナー達は…

 口は悪いし

 自分勝手だし、調子乗りで、イキりぼっちの

 どうしようもない奴らだけど……

 ミミのことをバカにするようなクズはいねぇ!!」


なぁ!お前ら!とスマホ画面を覗き込む。


(言い過ぎじゃね?)

(おま…そんな風に思ってたんか?)

(さすがの俺たちでも傷付くぞ)

(まぁ、ミミちゃんのことについては同意するがなw)

(しかし、そこだけだ!てめぇ、後で覚えてろよw)


後で覚えてろ?

なにそれ怖い、忘れとこ。


ミミにもその画面を見せる。


リスナー達からの、

頑張れ!や、俺たちがついてるぞ!

結婚しよう!

ミミちゃんと結婚するのは俺だ!お前はうるさい黙ってろw

という温かい?コメントを見て

彼女は笑い、素敵な笑顔になった。


「マサトさん、そして皆さん。

 ありがとうございます。

 どこまで出来るかわかりませんが、精一杯やってみます!」


涙の跡が見える瞳に

強い決意の火が灯っている。


その光景に、俺は安堵していた。

ソロでやっていた時には感じることのなかった心の安らぎ、

これがパーティか。

認めたくないものだな、

自分自身のソロゆえのちっぽけなプライドがあったということを。

……性能三倍にはならないけど、ミミのおかげで元気百倍にはなったな。


「よし!

 それじゃあ、いっちょドラゴン退治だ!」


俺とミミ、そしてリスナー達は

未だ動かないドラゴンを警戒しながら、

作戦会議を始めた。

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