第5話 異常事態

はっ、と我に返り、

はしゃぎすぎて引かれたかもしれないと不安になりながら

俺はミミへ視線を向ける。

するとそこには、ぽろぽろと涙を流す彼女の姿があった。


「ど、どうした!?

 俺がはしゃぎすぎてドン引きした!?

 嫌になったか!?」


俺があたふたしていると、

涙が溢れ続ける目を拭いながら話し始める。


「ご、ごめんなさい!

 私、今までこんなに褒められることってなくて

 嬉しかったんです」


そう言って彼女は、今までで一番の笑顔を見せる。

この子は、本当に辛い扱いを受けて来たんだろうな。

まぁ、確かに吸収されたら、された側のスキルは消えるし、

魔法を吸収したら威力も上がって、味方を巻き込んだり、

地形が変わって足場が悪くなり、不利になる状況もあるかもしれない。


ミミと今までパーティを組んだ奴らは

そういう能力なのを理解せず、対策を練ろうともせずに一方的に責め、

そして、俺でも知っている噂が流れていったのだろう。

十五歳の女の子じゃなくても、しんどい状況なのに

この子はここまで頑張って来たんだな……


目の前で涙を流しながら、嬉しそうに笑っている少女を見て

俺に何かできることはないかと考え始める。


っと、その前に、この依頼を無事に完遂しなくちゃな。


「ミミの能力は強力だ。

 それは俺が保証する。

 逆に俺が足手まといになるかもしれないが

 この依頼……絶対にクリアしような」


ミミは俺の言葉にまた驚き、涙を流しながら

何度も何度も笑顔で頷いていた。


顔が赤い気がするが……泣いてるせいか?



俺はミミに吸収された忍び足を再び発動させてみる。

二度目は吸収されなかった。

どうやら、吸収して発動が続いているスキルは、

再度吸収されるということはないようだ。


お互いにスキルが効いていることを確認したところで

俺はスマホを取り出し配信を始める。


(おっ!いっちばーん)

(ちぃ!一番取り逃したか!!)

(あれ?もうダンジョン内?珍しいじゃん。普段は入口から配信始めるのに)


配信を始めるといつものように続々とリスナーが入ってくる。


あっ…こいつらにミミのことを説明しなきゃいけないのか。

絶対面倒になるヤツだな。


俺は大きく溜め息を吐きながらミミを画角に入れる。


「あー……少し事情があってな。

 この子、ミミって言うんだが

 臨時…というか一時的にパーティを組むことになった。

 それで能力を見せてもらってたんだよ」


俺がそう説明している間…というか今も

コメント欄は高速で流れている。


(なんだその美少女!?)

(マサト!そこ変われ!!)

(リア充ですか!?爆発するんですか!!)

(お前…彼女とかいたのかよ……仲間だと思ってたのに…泣)

(この裏切り者!!!)


という妬みコメントが多数寄せられ、

それを見たミミは、困ったような顔をして……なんかさっきより顔赤くない?


「うるせぇうるせぇ!

 お前らが思ってるような関係じゃねぇ!

 ギルドからの依頼で一時的にパーティを組んでるんだよ!」


俺は画面に向かって叫ぶ、がダンジョン内なのを思い出し口元を手で覆う。

そして気持ちを落ち着けてから、小声でこれまでの経緯を説明した。


(なんだ、そういうことかよ)

(それならそうと早く言えよな!)

(まったく紛らわしい!!)

(俺だったら、こんな可愛い子なら何があってもパーティに入れるけどなぁ)

(わかるわぁ。そして俺が守り抜く!!!)

(お前にゃ無理だwまぁ、組むのが今回だけって言うなら特別に許してやろう)


こいつら…テンプレみたいな返ししやがって、

相変わらずすぎて、もうツッコむ気も失せるわ。


「確かに今回は一時的で成り行き上だが、

 この依頼の結果次第ではもしかしたら……な」


俺は思いっきり含みのある言い方をする。

ミミは、さらに顔を赤くしながら、瞳から涙を溢れさせており、

それを見たリスナー達は、泣かせただの、責任とれだの、

裏切者だの、女たらしだのと騒ぎまくっている。

……言い過ぎじゃね?


俺は心の中で泣きながら、そろそろ進もうとミミに話す。

ミミは涙を拭い、小さく頷いた。


ミミはなんでこんなに顔が赤くなってるんだ?

このダンジョンそんなに暑いか?


そんな疑問を残しつつ、俺たちは歩を進める。

とりあえずの目標は、

俺がミノタウロスを撒くために使った脱出ポータルがある、五階層だ。


一、二階層はスライムやゴブリン、コボルトなどを上手く躱し、

身を隠しながら索敵に専念し、

どうしても回避できない奴だけ俺が討伐し無事に抜けることが出来た。

三階層にはウルフなどの、匂いで索敵するモンスターが多いのだが、

ここも俺一人でも討伐することが出来るレベルだ。


ちなみに道中、リスナー達は俺のことはそっちのけでミミを質問攻めにしていた。

ミミの高火力魔法はさすがに目立ちすぎるし、

発動にも時間がかかるから、本当に危なくならない限りは

戦闘には参加しなくてもいいと言ったが……

一応、これ…俺の配信なのよね……

まぁ、ミミの配信に切り替えてもここにいるリスナー達が流れていって

状況は同じになるんだろうけど!!


そんなこんなで俺は心の中で号泣しながらも

四階層への階段に到着し、下っていく。


階段を下りきったところで、俺とミミは警戒を強めた。


「な、何かここ…異常じゃないですか……?」


ミミは震え、おどおどしながら周りを見回している。

その反応を見て、リスナー達も尋常じゃない雰囲気を悟ったようだった。

先ほどまでのミミへの質問攻めは止まり、

大丈夫?危なかったらすぐ逃げなよ?などの心配や気遣いのコメントが流れる。


確かに、いつもと雰囲気も空気も違うことは俺も感じてはいるが、

見た目に明確な違いがあるわけではない。


ドロッとした空気が、肌にまとわりつくような気持ち悪さ。

そして、今にも押し潰されそうな重圧が四階層に充満している。

ミノタウロスの時は、こんな風にはならなかった。

間違いなく、この階層にミノタウロスよりもヤバいヤツがいる……

その答えに行き着くのに時間はかからなかった。


「ミミ、この先何が起きるかわからない。

 戦闘は全て回避、全神経を索敵に回すんだ」


ミミは小さく頷くと、俺と間隔を開けないようについてくる。


先遣隊として、この階層の異常の正体を突き止める必要がある。

まだ引くわけにはいかない。

ミミもそれをわかっているから、泣き言も言わずについて来てくれている。

俺は、忍び足だけではなく、インビジブルも追加発動させ索敵を続けた。

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