第4話 シナジー

「よし、ミミ準備はいいか?」


「はい!いつでも行けます!」


次の日、俺とミミは準備を整え、深緑の洞窟の前まで来ていた。


本当は昨日のうちに来ようと思ったのだが——



「これから!?

ダメです!

 マサト君は朝からダンジョンに潜っていて、

 そのうえでミノタウロスに追い掛け回されたんでしょう?

 今日は休んでください!

 ギルドマスター命令です!!」


ということで昨日は来ることが出来なかった。

まぁ、カエデが言ってることも

わからんでもないけどな。


しかし、ミミに嫌われたと思っていたが

今日は普通だな。



——カエデの命令を受けた後

時間も出来たことだし

親睦を深めるために食事に誘ったのだが……



「それなら、ミミ……ちゃん?

 親睦を深めるために食事にでも行くか?」


俺は別に下心があったわけでもないのだが


「ミミでいいです!

ぜひ行きた……

い、いえ……命が惜しいのでやめておきます」


と断られてしまった。

ミミは、なぜかガタガタと震えている。

視線を追ってみると、

その先にいたのは、にこにこと笑っているカエデだった。


俺はなにがなんだかわからないまま、

とりあえず、待ち合わせ場所と時間を決めて、

その場は解散ということで帰路につき、今に至る。



——それにしても、噂のバ火力爆発娘ということで、

どんなにぶっ飛んでる奴なんだろう、と

かなり警戒していたが素直ないい子じゃないか。


この子がバ火力爆発娘と呼ばれ避けられている理由は、

味方の邪魔をするうえに、炎系の高火力魔法しか使えないから、

ということらしいが……

高火力魔法で味方ごと攻撃…的なヤツか?


それとも、某アニメの爆裂娘みたいに超高威力の魔法を一発しか撃てないとかか?

うーん…聞いてもいいんだろうか?

本人が話してくれるまで待つべきか?

ずっとソロだったから、こういう繊細な内容に関してはわからん……


ちなみに【魔法】は固有能力とは別物として扱われ、

魔法が使える人は能力が二つあることになる。

つまりミミはもう一つ能力を持っている……

もしかしたら、そっちが厄介なのかもしれない。


俺がいろいろと考えているのが

表情に出ていたのか、


「すいません。

 ギルドマスターの指示でも

 私なんかと組むの嫌…ですよね……」


ミミは悲しそうな笑顔で申し訳なさそうに声を掛けてくる。

そんなミミを見て俺は慌てる。


「い、いや、嫌なんてことはないんだ!

 ただ…俺は、君がなんて呼ばれているのかは知っているが

 それ以上のことは知らなくて。

 話したくないことかもしれないから

 なんて聞こうかって……」


慌てすぎて、つい本音を話してしまった。

彼女はその言葉に一瞬ポカーンとしていたが

ふふふっ、と笑いだした。


「マサトさんは優しいんですね。

 今まで、私の呼び名や噂を聞いて

 話を聞こうとしてくれる人なんていなかったので」


そう言うミミは、また少し寂しそうな顔をする。


まぁ、確かにな。

俺が知っている『味方の邪魔をする』、『炎高火力魔法しか使えない』という内容だけでも、

関わりたいとは思えなくなるのには十分だ。


一属性の高火力よりは、複数属性の小火力の方がダンジョンでは重宝される。

モンスターは、当然いろいろな弱点があるため、

小火力でも複数属性有れば一撃必殺とはいかなくとも、

怯ませたり、足止めに使ったりできる。


そして道中では、何があるかわからない。

火を灯したり、水かさを増減させたり、といった謎解きや

落とし穴のようなトラップがあるかもしれない。

そういったものに対処する場合も、やはり複数属性持ちがいい。


パーティーが大人数になると、

その分、機動力も下がるしな。


そして『味方の邪魔をする炎の高火力』

これだけ聞いたら味方ごと……と勘違いされてもおかしくない。


そんな奴と組む、組まないの前に、関わりたくないと思っちゃうもんだ。

現に俺もそうだったし…ごめんな。


俺が心の中で謝罪していると、


「マサトさんには、きちんと私の能力説明しておきますね!」


と笑顔で語りかけてくる。

本当に嬉しいんだろうな。


「まず、一つ目。

知っているとは思いますが『魔法』ですね。

なぜかわかりませんが、私は炎属性の高火力魔法しか使えません。

教えてもらっても発動すらできないんです。

そして、二つ目。

これが…私がみなさんに敬遠されている理由なんです……」


そこまで言うとミミは言葉を切り、

深緑の洞窟内で実践してみせるというので

索敵役の俺が前衛、彼女を後衛にし、二人でダンジョンへと入った。


ダンジョンへ入ると、すぐに俺は、いつものようにスキル:忍び足を発動する。

当然俺にしか効果のないスキルだが、少し進んだところで気付いた。

俺の足音が消えておらず、ミミの足音が消えている。

驚き、ミミの方を振り返る。


突然振り返ったことで、彼女も驚きの表情を見せたが

すぐ申し訳なさそうに微笑む。


「これが私のもう一つの能力、【吸収】です」


吸収……発動したスキルをコピーするような能力だろうか?

いや、だとすると俺に対してスキルが発動されていないことの説明がつかない。


「マサトさんの発動したスキルを『吸収』して

自分の効果として発動したんです」


そういうことか。

だから俺の効果は吸収されて消えてしまった、と。


「それとまだ追加効果があって……

 えっとー…あそこにいるゴブリンたちを見ててもらえますか?

 あと、ギルドマスターから聞いたんですが、

 姿を見えなくするスキル、『インビジブル』が使えるんですよね?」


ミミは、少し先の開けたところにいる、数匹のゴブリンを指差しながら聞いてくる。


「ああ、インビジブルなら使えるが……」


というと「使ってくれますか?」と言われ

スキル:インビジブルを発動する。

すぐに俺の姿が見えなくなる。

と同時にミミの姿が少しずつ見えなくなっていき、俺の姿が見えるようになってきた。


なるほど、徐々にそのスキルの効果を吸収するのか。


俺はミミの能力を分析しながら

彼女の言う追加効果が発動するのを待った。

【魔力】は基本的に、体内にある自分のモノと空気中に漂うモノとを

混ぜ合わせて使用する。

ミミが魔法を使うための魔力、それが体内外から集まっていくのを感じる。


「エクスプロージョン……」


ミミはボソッと唱える。


エクスプロージョンは炎系の上級魔法。

通常であれば、いくつかの魔法陣が目標地点へ向け展開され、

一筋の炎をきっかけに大爆発を起こす魔法だ。


しかし、変化どころか発動すらしてな……


などと思った瞬間、

先ほどのゴブリンたちがいたところで

ダンジョン全体を震わせるほどの、大爆発が起こる。


その出来事に驚き、何が起きたかわからず呆然としていると。


「これが追加効果です。

吸収したスキルは、私の魔法に乗せて放てるんですよ」


いつの間にか見えるようになっているミミの姿があった。


俺から吸収したインビジブルが、エクスプロージョンに乗っかって、

発動が見えない大爆発になったと……


「す、すげぇ……」


俺は感動に打ち震えていた。


「え?」


俺の素直な感想に、彼女は驚きの表情でこちらを見る。


「いやいや!

『え?』じゃなくてだな!

スキルを魔法に乗せて撃つ?

なんだそのトンデモ能力は!?

つまり、インビジブルさえ発動すれば、悟られずに不意打ちが出来るってことだろ!?

俺の能力は隠密。

隠す、誤魔化すは大得意だし、シナジー生まれすぎだろ!?

カエデが言ってた俺のスキルを存分に活かせる人材ってこういうことか!」


俺はここ数年で一番テンションが上がっていたかもしれない。

ミミをそっちのけで

ずっと一人で、すごいすごいと、はしゃいでいた。

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