第2話 外

「つっかれたぁ…とりあえずこれで今日は配信終わるわ……」


ダンジョンの入口で俺は

リスナーに向けて配信終了を告げる。


(あいよ!お疲れー)

(次も期待してるわw)

(やっぱりお前はピンチの時が一番輝いてるZE☆w)


それぞれ挨拶をしていくリスナーのコメントを眺めつつ

俺は配信を閉じた。


入口から一歩出ると

太陽の光が俺を照らし、眩しさに目を細める。

久々に太陽を見た気になっているが

時計を見ると、実際はダンジョンに入ってから四時間ほどしか経っていない。

早朝から潜っていたので今は十時過ぎ。


深いダンジョンになるとテントを持ち込んで、

モンスターなどが入って来れない空間、

通称【セーフゾーン】で野営をしながら攻略するパーティもいるので、

戦闘なども含めると四時間なんて案外普通のことだ。


「あの野郎…マジでしつこかったな……」


俺はぽつりと愚痴をこぼす。

あの後、ダンジョンの中をずっと追い回されていた。

上の階層に逃げても下の階層に逃げてもどこまでも追い掛けられた。

ようやくの思いで、ダンジョン内に生成される【脱出ポータル】を発見し

地上へ戻ることが出来た。


ちなみにダンジョンは一週間ごとに、全てが作り直される。

そのうえで脱出ポータルは、いつも位置や階層などランダムに生成し直されるので

見付けるのは意外と大変なのだ。


マッピングに関しても地図は一週間で使えなくなるが

帰り道や、まだ探索していない場所を把握するために必須となっている。


「……しかし、あのミノタウロス…気になるな」


追い回されている間も気にはなっていたが

普通、モンスターは出現した階層からは移動しないのだ。


『自分の実力よりも強いモンスターに見付かり、追われることになったら

階層を移動しなさい。その階段以降は追い掛けてこなくなる』


というのは俺たち探索者の中では常識だ。

だが、あのミノタウロスはずっと追い掛けて来た。

しかも、俺が潜っていたダンジョンでは

今のところミノタウロスの目撃情報はない。

さらに言うと、俺がいたのは七階層、そんな強いモンスターが出現する階層ではないのだ。


「これは異常事態なのかもしれないな。今までの常識が通用しないモンスターの出現…

 政府に報告して注意喚起してもらうか」


俺は知り合いの政府関係者に会うためにスマホで連絡を入れる。

話したいことがあると伝えると、


「今日の昼過ぎに【ギルド】まで来るように」


とのことだった。


ギルドとは、政府が作った、探索者として登録した人が所属する政府機関だ。

探索者の登録だけでなく、ダンジョンに関する報告、依頼や、政府側からの連絡など

様々なことが、ここを通して行われている。


特にモンスターの異常に関しては、対策や周知が急務として扱われる。

それを知らずにいると、命に関わるからだ。

今回の件なんかはモロに関わってくるだろう。

モンスターから逃げるために階層を移動して、安心して一息ついていたら

追い掛けてきてやられる、なんてことになりかねない。


それと……モンスターの異常はダンジョンの異常と同義だからな。


こういったことは実は初めてではない。

そしてその異常も毎回異なることもわかっている。


例えば最初に起きた異常は

ダンジョンの五層には出現しないはずのモンスターの集団が現れたことだ。

そこまで強いモンスターでもなかったため、すぐに一掃出来たのだが

その探索者は、ギルドへの報告を怠った。


するとその一週間後

五層に危険度Aランクのモンスター【ベルセルク】が出現した。

ギルド内の実力者を集めた討伐隊が編成され、無事に討伐されたのだが

後手に回った分、多くの犠牲者が出た。


その件があり、事態を重くみた政府は、ギルド内にもランク制度を設けた。

きちんとするべきことをしたうえで

探索者として有益な情報提供や、戦闘での実力があると認められた場合に

ランクが上がっていくシステムだ。


探索者として箔がつくだけでなく、信用や強さの証明にもなり

政府からの援助も手厚くなっていくため

みんながSランクを目指して、報告などをしっかりするようになった。


ランクはみんなFランクから始まり

最高のランクはSランクとなっているがその上が存在しているという話も

都市伝説級の噂話として広まっている。

メディアなどで取り上げられることもなく、

一部の一般の索敵班でも特定できないらしく、

眉唾物だとされている話で、本当に存在しているかわからない存在なのに

噂だけが尾ひれを盛大になびかせ一人歩きしている状態だ。


「今回報告しても…きっとランクは上がらんだろうなぁ……

次はいつ上がるのかねぇ……」


俺のランクはDランク。

一般的なランクだ。

Fランクは駆け出し、

政府からの簡単な依頼を受けていくという、ダンジョンに慣れるためのランク。


いくつか政府からの依頼をクリアすると様子を見てすぐに

次のEランクに上がれる。


Eランク以降は、希少鉱石やモンスターの討伐数、ダンジョンの攻略階層など

様々な要因を加味し昇格していく。


モンスターの討伐数などは希少金属を加工して作られたギルドカードに

勝手にカウントされていくという仕様だ。

これのおかげで報告が偽れないようになっているが加工方法は

政府しかわからないようになっている機密事項なんだそうだ。


「まぁ、俺らしくちまちまやってくしかないか」


はぁ、と大きな溜め息を吐き

俺はギルドへと歩を進めた。

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