ダンジョン配信していたら真実に辿り着いた

月星 ゆう

第1話 ダンジョン配信

「何でこうなるんだよぉ~!!!」


俺は巨大な両手

斧を持った二足歩行の牛のようなモンスターに追われ

全速力で走っていた。


(頑張れ頑張れww)

(ほれほれ、そろそろ追いつかれるぞ~w)

(疲れたら休憩してもいいんだぞ?ww)


スマホにはカメラで撮影している画面と

たくさんのコメントが映し出されている。


そのコメントは俺の姿を見て

面白がる人が大半を占めていた。


俺の名前は『工藤 真人(クドウ マサト)』。

ダンジョン配信者だ。

十年前に突如として、日本各地に生成されるようになった、

ダンジョンの調査をしながら配信活動をしている。


「本当にお前らってこういう状況を楽しむよな!!

 いい性格してるよ!!」


なぜダンジョンが生成されるようになったのかは

政府が周辺を調査したがわからなかったそうだ。


初めて入口が発見されたのは

普通の家の庭だそうで

当初は


『朝起きると家の庭に、地下へ続く大きな階段が出来ていて——』


と毎日のようにテレビで流れていた。

家主がチラッと中を覗き、入っていったところ

内部はトラップとモンスターの巣窟で

トラップにかかり怪我をし、さらにモンスターに追いかけられたが

命からがら逃げてきたらしい。


公表はされていないが、政府が軍を送り込んだ結果

誰一人として帰って来なかった…なんて噂まで流れている。


それが事実なのかはわからないが、

最初の頃は、モンスターもダンジョンから出てくることはないので

放置されていた。


しかし、出現から半年ほどが経つ頃には

日本各地で発見されるようになり、

面白半分で中に入り、怪我をしたり

帰って来ない人が増えた。


その状況を重く見た政府が

対策として『とある条件に合う人』限定で

【ダンジョン攻略専門職:探索者】という職業を作り、募集し始め

そこに俺が登録し今に至る。


配信をしているのは、

政府がダンジョンの危険度を民衆に伝えるため、

必ずするように義務付けているため行っているが、

ほぼ娯楽と化してしまっているのが現状だ。


「クソッ!仕方ない!」


少し開けた空間がこの通路の先に見え、

それを確認すると同時に精神を集中する。


(おっ!もう使うのか)

(まぁこの状況じゃ仕方ないでしょ)

(あまりぱっとした【スキル】じゃないけどなw)

(でも綺麗なんだよねぇ)


待ってましたと言わんばかりのコメントが

大量に流れていく。


俺の配信を見に来るリスナーは

これを見に来ていると言っても過言ではない。


「好き勝手言いやがって、これ使うと疲れるんだぞ……プリズム!」


ぶつくさと文句を言いながら、空間の真ん中辺りまで辿り着くと

俺はそう唱える。

すると俺の身体は虹色の光に包まれ

四方八方にわかれてから、俺の姿へと変わる。


(おぉ!いつ見ても綺麗!)

(これ使わせるためにモンスターに見付かってほしいまであるww)

(俺にもこんな力があればなぁ……モテたのに)

(安心しろ。お前にゃ無理だw)


そう。

これが『とある条件に合う人』。

ダンジョンが生成され始めてから

日本中にちらほらと特殊な【スキル】を発現する人が出始めた。


人によって種類は違うのだが

俺は特に【隠密】……まぁいわゆる忍者のようなスキルが使える。

戦闘向きではないが、情報収集や逃げるためにはもってこいな能力。

友達のいな……一匹狼の俺にはちょうどいいスキルだ。


俺は自分の発した光を利用して

モンスターの死角になる岩陰に身を潜めた。


「はぁはぁ……上手く騙されてくれよ?」


俺は岩陰からモンスターを観察する。

光が収まると、モンスターは目をこすりながら

俺が元居た場所に視線を移す。

そこには十数人に増えた俺の姿があった。


「ガアッ!?」


モンスターも驚いたようで一瞬動きを止める。


(いつも通りこれで撒けるでしょ)

(あれはミノタウロスだなぁ)

(ミノタウロスって中堅モンスターのイメージなんだが)

(ゲームとリアルじゃ迫力が違うわぁ)


コメント欄では呑気に、感想を言い合っている。


「ミノタウロスか……

 確か危険度Bランクってモンスター図鑑に書いてたな」


【危険度ランク】……モンスター達は、強さや特性によって

危険度のランク別に分類される。

ちなみに通常、ソロ討伐可能なランクはCまで

それより上はデュオ以上のパーティ戦推奨とされ

Sランクになると一定以上の実力者で、

数百人規模の部隊編成をしなければ討伐不可能とまで言われている。

まぁ、戦うなら、って話だが。


(マサトは逃げスキル持ってるから、強さとかほぼほぼ関係ないけどなww)

(逃げるな、卑怯者ぉぉぉぉお!!ww)

(なんだかんだ言って、戦闘するより緊張感あって見てるの好きなんだよなぁ)


そんなコメントが流れる中

ミノタウロスは周りでちょろちょろと動く俺(分身)に

攻撃を仕掛ける。


一発殴っては俺(分身)が光になって散り

また殴っては散り、を繰り返している。


……相変わらず、自分が消え去るとこなんて、見ていて気持ちの良いもんじゃないな。

まぁいい、今のうちにとんずらしないとな。


俺がミノタウロスの死角を突き、近くの通路から逃げようと

移動を開始したその時。


「グアァァァァァァァァァア!!!!」


と耳をつんざく叫び声と共に、

大きな爆発にも似た音が鳴り響く。


嫌な予感がして、恐る恐る後ろを振り向くと

そこには鼻息を荒くし、肩で息をしているミノタウロスがおり

その周囲の地面は抉られ、壁の方まで瓦礫が飛び散っている。


「おいおい、嘘だろ……俺の分身たちは!?」


辺りをキョロキョロと見回しても影も形もなく

見事に全滅していた。

その時、ミノタウロスの持つ両手斧から石の欠片が地面に落ちる。

俺はその瞬間全てを察した。

奴は両手斧を振り回し周囲丸ごと吹き飛ばしたのだ。


(これってピンチ?)

(ヤバくね?)

(さすがにここまで来ると逃げられないんじゃ……)


さっきまで威勢が良かったリスナーも

状況を察し、次第に元気がなくなってくる。


しかし、ミノタウロスはこちらにまだ気付いておらず、

クールダウンのためか一点を見つめ、息を整えているように見えた。


逃げるなら今のうちだな。


俺は通路に向かって走り出す。

足元は先ほどの攻撃によりボコボコになり、地面の欠片などが散乱しているが

【スキル:忍び足】によって俺の足から出る音は消しているため

移動に関しては問題ない。

あとは、音以外の索敵が奴にないことを祈るだけだ。


俺は後方を確認しながら通路へと入る。

それと同時にミノタウロスがぴくっと反応した。


俺はそれを見逃さなかった。

空気の流れ、体温感知、どうやったかはわからないが、

奴が俺の居場所に気付いたことを察した。


「くっ…これでもダメか!」


ミノタウロスに追い掛けられてから

マッピングなんてする暇もなく

この通路がどこに繋がっているかもわからない。

しかし、帰りの通路を探している暇も余裕もない。


また追い掛けられるとわかりながらも

選択肢のない俺は

目の前にある通路を一目散に駆け出した。

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