第2話 能面で味を占めた女
小さい頃に俺と伊織が見ていた、衛星放送のアニメ専門チャンネル。
そこでは日本以外の国のアニメが吹き替え版でたくさん放送されていた。
俺はそれ以外のチャンネルで放送されているアニメや戦隊ものなども見ていたが、伊織はずっと同じチャンネルの海外のアニメばかり見ていた。
そしてその中の1つの作品に心を奪われてしまったのだ。
その後、俺が小学3年生になった年の春。
昇降口の廊下に張り出されたのは、入学したばかりの1年生たちが書いたそれぞれの『将来のゆめ』。
覚えたてのたどたどしい文字で「しょうぼうし」とか「パイロット」、「ケーキやさん」、「アイドル」などと言う輝かしい夢が書き連なっている中に俺は見つけてしまった。
『1ねん1くみ はがいおり』と平仮名で名前が書かれた俺の妹の夢。
そこには力強く『デクスター』と書いてあった。
「……はあ?」
『デクスター』、それはまさしく伊織が心を奪われた海外アニメの主人公・発明オタクの小学生の名前だった。
以来その『デクスター』に心酔している伊織は、日夜篭もり続けて謎の発明を繰り返している。
学校の自由研究には毎年その発明品を出品しており、昨年は目から光線を出す能面を出品してなぜか文部科学大臣賞を受賞していた。本当に意味が分からない。
なお、その目から出る光線は物を破壊する事が出来る。ポケモンで言うところの「はかいこうせん」のようなものだ。
俺からして見たらただのヤバい呪物である。
その呪物である能面で賞を取って以来、謎の発明は日々エスカレートしている。
そして奴はついに俺の領域にまで手を出し始めた。
俺の部屋のドアになぜか突然括り付けられていた金持ちの家にある鹿の首の剥製には、丸いドアノッカーが付いている。
俺が恐る恐るそれでドアを1回叩いたところ、その鹿の首が突然喋り出したのだ。
もっとも喋っているのは鹿ではなく、どこかから俺の様子を見ている発明オタクの中学生な訳だが。
「おい…何でもいいから俺を部屋に入れろ。つーか何勝手に鍵付けてんだよ!!!」
帰宅してから既に長い時間が経ったように思えたが、俺は妹のおかげで未だに自分の部屋に足を一歩も踏み入れていない。
と言うかあいつは今どこにいるんだ?部屋か?
俺は向かいにある伊織の部屋のドアを勢いよく開けたが、中には誰もいなかった。
『ちょっと…人の部屋を開けるならノックくらいしてよね!』
俺が急に部屋を開けたのが気に食わなかったのか、鹿の首越しに伊織が苦言を呈して来た。
「お前はよくそのセリフが言えるな!て言うかお前の部屋何1つ変わってねえじゃねえかよふざけてんのか!!!大体お前今どこにいんだよ!!!」
変えるなら自分の部屋にしろよ!と俺は息巻いた。
『私がどこにいるかは部屋に入れば分かりますー。早くドアノックでノックしてくださいー』
2回叩くんでちゅよ!と煽って来た妹に俺は盛大に舌打ちをした後、ドアノッカーを2回鳴らした。
カチッ
「…………」
今の音は恐らく勝手に付けられた鍵が解錠された音だろう。俺は恐る恐るドアノブに手をかけると、今度は部屋のドアが開いた。
勢いよく入った部屋の中は特に変わった様子はなく安堵した。
その時『ピッ』と言う機械音が聞こえた。
部屋を見渡すと、伊織が俺のベッドに寝転んでくつろいでいる。何かの時間を測っていたようだ。
先程の機械音は伊織がストップウォッチを止めた音だった。
「ヒントを与えた上で21分32秒ね…うん、アウト」
「…………っ」
俺は色々混乱して声が出ずに立ち尽くした。
部屋に入るまで21分もかかっていたのか。
大体こいつは何で俺のベッドで悠々と過ごしているんだ?
いや…違う。そうじゃないだろう俺!!
色々言いたい事が他にもいっぱいあったのに、俺は言葉にならず「アウトって何だああああああ!!!」とその場で叫んだ。
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