俺の妹が俺の部屋を改造しまくる件について

遠野みやむ

第1話 俺の部屋がおかしい

一般的な女子中学生とは、多感な時期であり思春期の真っ只中である。

メイクや美容に目覚めたり、どのアイドルが可愛いだのイケメンだの友達同士で話したり、部活に勤しんだり恋バナに花を咲かせたり、もしかしたら恋人がいる子もいるだろう。

俺の同級生はそうだった。


しかし、しかしだ。

現役の中学生である俺の妹は、このどれにも当てはまらない。

俺の今の悩みの種。それは、妹の行動そのものだった。




「じゃあな佳澄かすみー!」


「おう!また明日な」


高校1年生の俺、芳賀佳澄はがかすみは放課後友達に挨拶をして学校を後にした。

テスト期間のため放課後の部活がなく、暇を持て余した俺は家で勉強でもするかと品行方正に(?)まっすぐに自宅へと向かう。


「ただいまー」


共働きの両親はまだ帰宅をしておらず、家の中は静まり返っている。

2歳下の中学2年生の妹・伊織いおりはいるかも知れないが、いてもほぼ俺とは口を聞かない。

仲が悪い訳ではないが、互いに年頃なのもあってか会話は皆無に近く、最後にちゃんと話したのもいつなのか分からなかった。

ふー、とため息をついて靴を脱いだ後、手を洗った俺は2階にある自室へと向かった。

階段を登った先には部屋が3つある。

右側にあるのが伊織の部屋、突き当たりは物置と化した和室である。残った左側にある部屋が俺の楽園…つまり俺の自室な訳だが、階段を登った俺はビクッと身体をこわばらせた。


「……え?」


俺の部屋のドアの真ん中に何かがいる。

近づいてみると、ドアには金持ちの家の壁にしかないあの鹿の頭部の剥製が掛かっていた。

黒いつぶらな瞳と目が合った俺は、何が起こっているのか分からず「は…?」としか声が出て来なかった。


俺の家は別に金持ちではない。

父は普通のサラリーマンだし、母は近所のペットショップでパートをしている。

親戚にもこんなものを持つ趣味を持っている人はいない。

辺りを見渡したが、俺の部屋のドア以外は何1つ変わったところはなかった。


「何で?えっ?…え?何これ…」


色々疑問点はあったが、とりあえず部屋に入ろうとドアノブを手にした。

しかし。


ガチャン


「…………」


俺の部屋のドアが開かない。


「何…っ、何でっ…はああ!?」


両手で何度か開けようとしたが、ガチャガチャ言うだけでびくともしない。

どうやら中から鍵がかかっているようだ。

どう言う事だ?鍵なんか付けた覚えはない。

いっそ体当たりでもしようかとした時に、再び鹿と目が合った。


「……………」


よく見ると、鹿の下に丸いドアノッカーのようなものが付いている。

ただ、俺の記憶が正しければこいつが付いているのは鹿ではなく、ライオンではないのか?

まあいい。そんな事はどうでもいいのだ。

俺は静かにドアノッカーを手にする。


ゴン。


「……………」


試しに一度ドアを叩いてみたが、何も起こらない。

一体何なんだこれは。俺は何をしているんだ…?

俺はもう一度鹿を見た。

すると。


『普通ノックって2回じゃない?』


「いやあああああっっ!!」


突然喋り出した鹿に驚いた俺は、奇声を上げながら尻餅をついてしまった。


「……っ」


心臓が飛び出して来そうだ。

呼吸を荒げている俺には一切構わず、目の前の鹿の首は喋り続ける。


『やだあ!お兄ちゃんそんなに驚いたの?ダッサ!』


鹿から聞こえて来た声、そして『お兄ちゃん』と呼ばれた事でこれが誰の仕業なのか俺はやっと気が付いた。


「てめぇ…っ、伊織!!俺の部屋に何した!?」


俺の妹、芳賀伊織はがいおり。中学2年生。

こいつは日夜部屋に篭もり得体の知れないものを作っている『発明オタク』なのである。

そしてこの日を皮切りに、妹による俺の部屋の勝手な改造が始まったのであった。

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