執筆二
そういえば、先生は覚えていますか。私たちがあっていたカフェを。落ち着く内装を。残酷に甘いココアを。あるいは慈愛で苦いコーヒーを。栄えているともいないとも言えそうなまばらな人混みの中、先生が先生になった瞬間を。先生があのカフェにどういった思い入れがあるのか、それともないのか私にはわかりませんが、私はあのカフェのコーヒーの味もココアの味も、なにも覚えていなくて、ただ代わりにあの日ー私の中で先生が先生になったあの日に、先生が私を見据えながら言った言葉はしっかり覚えているのです。世の中はそういうものだと思うのです。確かにそうかもしれないと思いました。私たちが教わっているのはあくまで道の進み方なんだって。今なら私が母に引っ張られた道も、先生についていった道も、そうでない道も。全部の道の進み方が、なんとなくですがわかるような気がするのです。これを教えてくれたのは先生だけではないのでしょうが、これを教えられていることに気づかせてくれたのは先生だと、今も盲目的に信じていたいのです。そういえばその話をしたとき、ふと先生はもし私が生きることに疲れたとき、あきらめる道も教えてくれるのだろかと気になったのですが、どうでしょうか。おそらく私が先生の生前にそれを直接聞くことはなかったと思いますので、答えを知る機会は初めからなかったのですが。話がそれましたが、何が言いたいかというと先生は私に勉強を教えてくれるようになりましたが、私は先生から勉強以外にも多くのことを教わったということです。初めからそのつもりで出会ったのではないかと言われればそれはそうなんですけど、そういう意味ではなく、日常的に先生とのお喋りは私に生きる理由以外にもなにかを与えてくれていたということが言いたいのです。困ったことに先生はこと勉強を教えることに関しては本職でしたので、テスト前なんて常に勉強の話ばかりで私としては憂鬱だったのですが、それが死ぬ理由にはならなかったので結局私はまんまと成績が良くなりました。本当に感謝しています。
私の小説 @yuri_kkyou
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