第5話『子雲がホームシック?』

◯川瀬さんチ・子供部屋

遂に真っ青になり、冷たい汗を流し始める子雲。その汗で少し溶けはじめている。

驚き顔で、子雲を見ているミカ、ショウタ、オバサン。


ショウタ「(焦って)お姉ちゃん、チビが溶けちゃうよぉ」


涙ぐむミカ。


ミカ「チビ……」


手を合わせて祈るミカ。


ミカ「神様、チビを助けて。お願い」


オバサンも祈る。

ショウタも手を合わせて祈る。


ショウタ「オバサン、チビを助けて」


(わたし?)と驚くオバサン。が、何もできない自分が悔しい。


ミカ「頼むなら神様でしょ」

ショウタ「だって、チビはオバサンの生まれ代わりだもん。きっと、オバサンが助けてくれるよ」

ミカ「だから、オバサンは死んだのよ」


悲しい顔になるショウタ。

“しまった”、という顔になるミカ。


ショウタ「(怒って)お姉ちゃんはオバサンのことが嫌いだから、そんなこと言うんだよ」

ミカ「そんな……(と悲しい表情)」

ショウタ「だから、チビは病気になったんだ。お姉ちゃんがチビを病気にしたんだ。 チビが死んだら、お姉ちゃんのせいだからね」


涙をボロボロ流しながら、ミカを睨むショウタ。

悲しいミカ。

一生懸命首を横に振るオバサン。


ミカ「(独り言で)オバサン、ごめんなさい」


驚くオバサン。


ミカ「悪いのはわたしなの」


そんなことない、とジェスチャーで教えようとするオバサン。


ミカ「だから嫌うなら、わたしを嫌って」


目に涙をため、大きく首を左右に振るオバサン。


ミカ「わたしを恨んでもいいわ」


遂に、涙を流すオバサン。


ミカ「だから、チビだけは助けて。お願い……」


ミカの目からも涙が流れる。

自分を責めるように地団駄を踏むオバサン。


すぐ近くに雷が落ちる。

“ピカ”

“ゴロゴロ”

雨も強くなる。

“ザーザー”

はっとするミカ。窓を開け、空を見上げる。

空では母雲が黒くなり、雨と雷を落としている。


ミカ「あ(と気づく)。おばあちゃんもわたしたちのことを心配していた。だから、母雲もきっと子雲のことが心配で心配でたまらないんだ」


必死で浮き上がろうとする子雲。直ぐに床に落ちる。


ショウタ「あ、チビ、病気だから無理だよ」

ミカ「子雲にとって、降りるのは簡単でも、登るのは大変なのよ」


驚くショウタ。

それでも、苦しそうにハァハァと息をしながら、一生懸命空に上がろうとする子雲。が、すぐに力尽きて、床に落ちてしまう。


ミカ「やっぱり、チビはママに会いたいんだ」

ショウタ「だって、チビの方から来たんだよ」

ミカ「今は寂しいのよ。だから、チビを母雲のところに返してあげなきゃ」

ショウタ「やだ、チビはぼくとずっと一緒にいるんだ」

ミカ「(優しく)ショウタだって、ママやおばあちゃんに会いたいでしょ」


口を尖らせたまま、ミカを睨むショウタ。

(しょうがないわね、と)優しく微笑むオバサン。

床に座り、優しい笑顔でショウタを見つめるミカ。


ミカ「 空に帰ったって、チビはショウタとずっと一緒よ。だって、オバサンなんだから。そうでしょう?」


泣きだしそうだが、今度は必死で我慢するショウタ。口を尖らせ、ミカを睨む。


ミカ「ね、ショウタ。チビを母雲のところに帰してやろう」


目に涙を溜めたまま、やっと頷くショウタ。


ショウタ「でも、どうやってチビを空に帰すの?」

ミカ「母雲に教えられたらいいんだけど。チビはウチにいます。病気ですって。そうしたらきっと、迎えにきてくれるわ」

ショウタ「(急に元気になり)じゃ、チビのママに教えようよ」

ミカ「空は遠いのよ。わたしたちなんて、アリくらいにしか見えないし、声だって聞こえないよ。気づくはずがない。どこか広いところで叫べばいいけど……」

ショウタ「じゃ、公園に行けばいいよ」

ミカ「でも……(と迷う)」


回想するミカ。


◯同・玄関(ミカの回想)

ミカの両肩に手を置くパパ。


パパ「ミカ、いいかい。絶対外には出ないこと。それから、誰が来ても入れちゃダメだよ。わかったね」


◯同・子供部屋

ミカ「ダメよ。パパから叱られる。パパをがっかりさせたくないの」

ショウタ「じゃ、ぼく一人で行くよ」


走って子供部屋を出ていくショウタ。


ミカ「あ、ダメよ。ショウタ」


ショウタを追って子供部屋を出ていくミカ。


◯同・玄関

靴を履いているショウタ。

廊下を走ってくるミカ。


ミカ「ショウタ、待ってよ」

ショウタ「だって、お姉ちゃんは行かないんでしょ。だから、ぼくが行く。ぼくがチビを助けるんだ」


玄関を出ていくショウタ。


ミカ「あ、ショウタ…… 」


考え込むミカ。


ミカM「自分たちだけでもちゃんとお留守番ができるところを見せて、パパを安心させたい。だって、パパを安心させることは、おばあちゃんを安心させることになるから。でも、ショウタが……」


何かを決心し、笑顔になるミカ。


ミカ「(独り言で)怖がりのくせに……」


◯公園

まるで夜のように暗い空。風も雨も強い。

ずぶ濡れのまま、空に向かって手を振るショウタ。


ショウタ「チビのママー、ここだよここー(と叫ぶ)」


まったく聞こえていない母雲。


ショウタ「(独り言で)母雲に聞こえていないよぅ。どうしよう?」


そこへ、聞こえてくる少女の声。


少女(ミカ)の声「チビが病気なのー」


驚き、振り返るショウタ。一気に、笑顔になる。

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