第4話『ミカが留守番にこだわる理由』

◯川瀬さんチ・子供部屋

床の上で、スヤスヤ眠っている子雲。

子雲を見ているミカ、ショウタ、オバサン。


ショウタ「(飽きて)お姉ちゃん、チビ、いつまで寝てるのぉ?」

ミカ「さぁね……」

ショウタ「面白くないよぉ」


口を尖すショウタ。


ミカ「あ、そうだ」


おもちゃのピアノを取り出すミカ。片手で明るい童謡を弾く。

目を覚ます子雲。ピアノの音を不思議顔で聞いているが、楽しく踊りだす。

(子雲は得意顔だが、体の一部が出たり引っ込んだりしているだけで不格好。)

鼻先で笑うオバサン。

子雲と一緒に踊りだすショウタ。

突然、子供部屋のライトがつく。


ショウタ「(嬉しくて)あ、ライトがついたよ」

ミカ「うん(と嬉しい)」


何か思いつくショウタ。


ショウタ「あ、そうだ。ね、チビ、いいもの見せてあげるね」


アルバムを取り出し、床に広げるショウタ。

そのアルバムにはママ、パパ、おばあちゃん、ミカ、ショウタ、オバサンの写真が貼ってある。

全員、笑っているが、オバサンだけが不機嫌顔。


ショウタ「(写真を見て)オバサン、どうして怒ってるの?」


バツが悪いオバサン。


ミカ「ウチに来たばかりだから、まだ慣れていないのよ」


指差しながら、子雲に家族を紹介するショウタ。

アルバムを見ている子雲。


ショウタ「チビ、これがぼくで、これがお姉ちゃん。それから、パパとママとおばあちゃん。おばあちゃんは今、入院しているの。これはオバサン。でも、オバサンは死んじゃったんだ。(何かに気づき)あれ……?」


首を傾げるショウタ。


ショウタ「オバサンも死ぬ前に動物病院に入院してたんだ。もしかしたら、おばあちゃんも死んじゃうのかなぁ?」


驚くミカ。慌てて、ショウタからアルバムを取り上げる。


ミカ「ショウタ、オバサンのことは言わないって約束したでしょ(と怒る)」


口を尖らすショウタ。


ショウタ「どうしてオバサンのこと言っちゃいけないの?」


複雑な心境のオバサン。


ミカ「パパとママとおばあちゃんが心配するからでしょ」


(どうしてミカちゃんにわかるの? と)不思議顔のオバサン。


ショウタ「どうして、パパとママとおばあちゃんが心配するの?」


心配顔でショウタを見るオバサン。


ミカ「どうしてもよ。わたしたちはオバサンがいなくても平気なふりをしなきゃいけないの」

ショウタ「どうしてオバサンがいないのに平気なふりをしなきゃいけないの?」


口をギュッと結び、怖い顔でショウタを睨むミカ。

ミカを見て驚くオバサン。


ミカ「オバサンは死んだからよ。もういないからよ」

ショウタ「お姉ちゃんはオバサンがいなくても本当に平気なの?」


え? と驚くミカ。


ミカ「わたしは……」


言いかけて、一度唇を噛むミカ。

その後、決心したようにショウタを睨む。


ミカ「オバサンなんかいなくったって平気よ」


悲しいオバサン。あ、と思い出す。


◯同・リビング(オバサンの回想)

ソファの隣同士に座っているおばあちゃんとママ。

前のソファーに一人で座っているパパ。

床に寝そべっているオバサンの幽霊。


おばあちゃん「明日入院するけど、ミカとショウタのことお願いね」


ママの手を握るおばあちゃんの掌。


おばあちゃん「オバサンが動物病院に入院して死んだばかりでしょ」


ドキッと顔を上げるオバサン。


おばあちゃん「だから、わたしも死ぬんじゃないかって、子供たちが不安に思うかもしれないから」


涙ぐむおばあちゃん。


ママ「そうですね。子供たちにはもっとゆっくり成長してほしいですからね。特にショウタが理解するのはまだ早すぎます」

おばあちゃん「こんな時にごめんなさいね」


おばあちゃんの手を優しく包むママの掌。


ママ「パパが一番心配ね。オバサンが死んだ時もずっと泣いていたから。そこがいいところなんだけど」

パパ「よし。おばあちゃんが元気になって帰ってくるまで泣かない。約束する」


ふとドアを見るオバサン。

少し開いているドアの隙間から誰かの影が見える、がすぐに消える。

不思議顔のオバサン。立ち上がり、ドアの方に歩く。


◯同・リビング前の廊下(オバサンの回想)

リビングのドアを通り抜けて出てくるオバサン。

歩いていくミカの後ろ姿。

ミカを追いかけるオバサン。


◯同・子供部屋(オバサンの回想)

ドアを開け、入ってくるミカ。ドアを閉める。

考え込むミカ。

ドアを通り抜けて入ってくるオバサン。

おもちゃで遊んでいるショウタ。ミカを見る。


ショウタ「お姉ちゃん、どうしたの? 」

ミカ「ショウタ、もうオバサンの話はしちゃダメよ」

ショウタ「どうして?」

ミカ「どうしても。いいわね」


不思議顔のショウタ。


◯同・子供部屋(現在)

思案中のオバサン。

口を尖らせて怒るショウタ。


ショウタ「オバサンはチビになったんだもん。パパがそう言ったもん」

ミカ「パパはショウタに心配かけないためにそう言ったに決まってるでしょ。どうしてそんな簡単なことがわからないのよ(と怒鳴る)」

ショウタ「お姉ちゃんはおばあちゃんがオバサンと同じように死んじゃっても平気なんだ。お姉ちゃんのバカー」


うろたえるオバサン。

目に涙をためて歯を食いしばり、ショウタを睨むミカ。

悲しいオバサン。

アルバムの写真を見ながら、何かに変身していく子雲。

始めは呆れるが、不思議に思うオバサン。

白い動物のようなものに変身している子雲。

子雲を見て、キョトンとするショウタ。


ショウタ「今度は何に変身したの?」


写真を指差す子雲。


ショウタ「写真の中にいるの? 誰?」


写真のオバサンを指差す子雲。


ショウタ「オバサン?」


怒るオバサン。

それでも得意顔で、お腹の太鼓を叩きながら踊り始める子雲。

子雲に猫パンチをするオバサン。

ヒェ、と逃げ回る子雲。

オバサンが見えていないショウタ。子雲の格好がおかしくて、腹を抱えて笑う。


ショウタ「ハハハ……」


目に涙をためたまま、子雲とショウタを睨んでいるミカ。


ミカ「バカー(と怒鳴る)」


ミカの声に驚き、振り返るショウタと子雲。

目に涙を溜め、睨んでいるミカ。


ミカ「おばあちゃんはわたしたちが不安になるってすごく心配していたのよ。だからオバサンのことを言っちゃいけないの。だって心配しすぎて、おばあちゃんまで死んじゃったらどうするのよ。ショウタもチビもバカー」


歯を食いしばり、泣くのを必死で我慢するミカ。

心配するオバサン。

腹いっぱいに息を吸い込み、どんどん大きくなる子雲。ついに、人間の大人ぐらいの大きさになる。まるで、大きな白ブタ。

プンプン怒りながら、子雲に詰め寄るオバサン。が、あ、と驚く。

太った白ブタの子雲がミカを優しく抱きしめる。

子雲がおばあちゃんに見えるミカ。


ミカ「……おばあちゃん……?」


まさか、と驚くオバサン。


ミカ「おばあちゃーん……!」


嬉し涙を流しながら、子雲に抱きつくミカ。

ウルウルした瞳で、ミカを見つめるオバサン。

ところが、ミカの腕から抜け出す子雲。

いいところなのに、と怒るオバサン。

ミカの足元に移動する子雲。

え、と驚くオバサン。

ミカの足元で力んでいる子雲。どんどん体が赤くなる。

不思議顔のオバサン。あ、と驚く。

ミカを乗せた子雲が少し浮く。


ショウタ「(驚いて)あ、お姉ちゃん、飛んでるー」


ミカを乗せたまま、50cmほど浮いている子雲。


ミカ「(驚き)え?」


怖々、下を見るミカ。

宙に浮いているミカ。

足元には、フラフラしながら必死でミカの体を持ち上げている子雲。真っ赤になりすぎて、爆発しそう。

驚くミカ。


ミカ「チビ、もう、わかったから、無理しないで。お願い」


ミカを乗せたまま、ゆっくり床に下りる子雲。

子雲から降りるミカ。

床に座り込んで、子雲を見るミカ。

子雲はすっかり疲れ、ハァハァと荒い息をしながら青ざめている。


ミカ「ありがとう、小さなおばあちゃん……」


子雲にキスをするミカ。

照れて、ピンク色になる子雲。


ショウタ「お姉ちゃんばっかりずるいよぉ。ぼくも飛ぶー(と駄々をこねる)」

ミカ「(呆れて)チビは疲れているの」

ショウタ「ぼくのチビだよ」

ミカ「あ、そう。じゃ、チビ、いいもの見せてあげるね」


アルバムのあるページを開くミカ。

そのページには裸の赤ちゃんの写真がある。


ミカ「チビ、これはね、ショウタの赤ちゃんの時の写真よ。おかしいでしょう」

ショウタ「違うもん」


慌てて手で写真を隠すショウタ。


ミカ「本当じゃないの」

ショウタ「じゃぁ、お姉ちゃんのも」


ミカからアルバムを取り上げようとするショウタ。

慌ててアルバムを押さえるミカ。


ミカ「やめてよー」

ショウタ「やだー。チビにお姉ちゃんの写真も見せるー」


呆れるオバサン。

本気で喧嘩になりそうなミカとショウタ。

心配になるオバサン。

寂しそうに、ミカとショウタの兄弟喧嘩を見ている子雲。

そんな子雲を見て、首を傾げるオバサン。

リビングから電話のベルが聞こえる。プルルルル……。


ミカ「あ、きっとパパだ」


走って出て行くミカ。


ショウタ「ぼくが出るー」


ミカを追いかけるショウタ。

ミカとショウタが取り合いしていたアルバムが床に落ち、あるページで開いている。

開いたアルバムのページをじっと見つめる子雲。

不思議顔で子雲を見るオバサン。

子雲に近づき、前足でちょんと突くオバサン。(行かないの?)

反応しない子雲。

首をひねりながら、出ていくオバサン。

尚もアルバムを見下ろしている子雲。


◯同・リビング

入ってくるオバサン。

電話で話しているミカ。その横に立っているショウタ。


ミカ「もしもし、パパ?」

パパの声「雷が落ちたみたいだけど、大丈夫かい?」

ミカ「停電になったのよ。でも、今はもう大丈夫」


ミカから受話器を奪おうとするショウタ。


ショウタ「ぼくもぉ、ぼくもぉ」

ミカ「ちょっと待って」


ミカから受話器を取り上げ、耳に当てるショウタ。


ショウタ「パパ、ぼくだよ。ショウタだよ」

パパの声「ショウタ、パパだよ。お姉ちゃんの言うことをちゃんときいて、お利口にしてる?」

ショウタ「うん、お利口にしてるよ。だからお土産忘れないでね」

ミカ「(独り言で)どこがよ」


それから、ミカとショウタは交替でパパと話す。笑顔で。

振り返り、あ、と気づくオバサン。

入口から部屋に入ってくる子雲。

子雲を見て、不思議顔のオバサン。

元気がない子雲。

気になって子雲に近づくオバサン。

楽しく電話でパパと話しているミカとショウタを見つめる子雲。どんどん悲しくなる。

子雲を心配するオバサン。

受話器を置き、さっさと出て行くミカとショウタ。

辛い子雲。

さ、行こう、と促すオバサン。

歩きだすオバサン。

渋々、ついてくる子雲。


◯同・子供部屋

入ってくるミカとショウタ。

床に落ちたまま開いているアルバムに気づくミカ。


ミカ「あ、この写真……」


アルバムの開いたページには1枚の大きな写真が貼ってある。ショウタが生まれる前に病室で撮影した家族写真。お腹の大きなママとパパとおばあちゃん、それに小さなミカ(3)が写っている。

写真を見て、不思議顔のショウタ。


ショウタ「ぼくは~?」

ミカ「ショウタはここ」


写真のママのお腹を指さすミカ。


ショウタ「どこ?」

ミカ「ママのお腹の中。もうすぐ生まれてくるショウタのために、パパがどうしても写真を撮っておきたいって言ったんだって。ママは、それどころじゃないのに大変だったって言ってた」


首をひねり、不思議顔のショウタ。

アルバムの次のページをめくるミカ。

そこには、病院のベッドの上で、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いて座っているママの写真。


ショウタ「もしかして、これ……?」

ミカ「ショウタよ」

ショウタ「絶対違うよ。猿の赤ちゃんだよ 」

ミカ「猿の赤ちゃんをママが抱いてるわけないでしょ」

ショウタ「だって~……」

ミカ「でもね、ショウタが生まれたとき、 ママ思ったんだって。やっぱり、ショウタが生まれる前の写真撮っててよかったって」


口を尖らすショウタ。


ショウタ「絶対、ぼくじゃないもん」


頰を膨らませるショウタ。


ミカ「ママの笑顔を見たらわかるでしょ」


何となく嬉しいが、照れ隠しで口を尖らすショウタ。


ショウタ「やっぱり、お姉ちゃんの赤ちゃんの写真も見る~」


アルバムのページをめくろうとするショウタ。

止めるミカ。


ミカ「あ、ダメ」

ショウタ「お姉ちゃん、ずるいよー」

ミカ「ダメって言ったらダメ」


アルバムの取り合いになるミカとショウタ。

ミカとショウタを見て、寂しそうな子雲。窓の方に移動する。

子雲を見て心配なオバサン。

窓から空を見上げ、ため息をつく子雲。

窓の方を見て、あ、と驚くオバサン。

灰色になって、小さな雨を降らせている子雲。

一方、どんどん本気の兄弟喧嘩になるミカとショウタ。


ミカ「本気で怒るわよ」

ショウタ「ぼくはもう怒ってるよ」


遂に、黒くなって、雪を降らせている子雲。

ミカとショウタに近づくオバサン。一生懸命子雲を前足で差すオバサン。(子雲がおかしいと教えようとしている。)

オバサンが見えていないミカとショウタ。


ミカ「ショウタのバカ」

ショウタ「お姉ちゃんの嘘つき」


ポツポツと雨音が聞こえてくる。

あ、と驚くミカ。慌てて、窓から外を見る。

外では少し雨が降っている。


ミカ「大変、洗濯物入れなきゃ」


洗濯かごを持って子供部屋から出ていくミカ。

ミカを追って出ていくオバサン。


◯同・庭

少し雨が降っている。

洗濯籠を持ってやってくるミカとオバサン。

洗濯かごを物干し竿の下に置くミカ。

次に、台を持ってきて乗るミカ。

洗濯ばさみを外し、洗濯物(タオル)を洗濯籠に入れるミカ。

偉いと頷くオバサン。

何度か同じ作業を繰り返し、最後のタオルを洗濯籠に入れるミカ。

洗濯籠を持って玄関に入るミカとオバサン。


◯同・子供部屋

洗濯かごを持って入ってくるミカ。

泣きそうな顔で、ミカに駆け寄るショウタ。


ショウタ「お姉ちゃん、チビが……」

ミカ「え?」


子雲を見るミカ。

床に倒れている子雲。熱かあるように赤くなって、ハァハァと苦しい息をしている。

驚くミカ。


ミカ「チビ、どうしたの?」


子雲を抱き上げようとするミカ。が、ミカの手は子雲の体を通り抜けるだけ。


ミカ「チビの体が暑い。きっと熱があるんだ」

ショウタ「(驚き)チビ、死んじゃうの~?」

ミカ「そんなこと……」


言いかけて、言葉が続かないミカ。


ショウタ「お姉ちゃん、チビを助けて。お願い」


涙をためた瞳で、ミカを見つめるショウタ。


ミカ「どうしたらいいの……?」


ついに真っ赤になり、息も更に苦しい子雲。


ミカ「チビ、頑張って」


チビには聞こえていない。


ミカ「(独り言で)どうしようどうしようどうしよう……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る