第3話『ミカ vs 子雲+ショウタ』

◯川瀬さんチ・子供部屋

宙に浮いている子雲。

ワクワクした瞳で子雲を見ているオバサン。

オバサンに気づく子雲。興味津々に飛んでくる。

嫌な予感が走るオバサン。

オバサンに突進する子雲。

驚くオバサン。

オバサンの体を通り抜ける子雲。

それでも、何度もオバサンに突進する子雲。

嫌がり、猫パンチをするオバサン。が、オバサンの前足は、子雲の体を通り抜けるだけ。

疲れるオバサン。

飽きる子雲。ミカの上方に移動する。


ショウタ「(瞳を閉じたまま)お姉ちゃん、雷もう大丈夫?」


瞳を閉じているミカ。目を開ける。


ミカ「うん、もう大丈夫」


目を開けるショウタ。ミカを見て不思議顔。

子雲、帽子のようにミカの頭に乗り、ふざけている。

呆れるオバサン。


ショウタ「あ、雲。お姉ちゃんの頭の上……」


雲と蜘蛛を間違えるミカ。ギョッとして、手で髪をかきむしりながら逃げ回る。


ミカ「キャァー、いやいやー……」


ミカの手にかき回され、バラバラになりそうな子雲の体。必死で自分の体を押さえる子雲。“ヒェー”という感じ。


ショウタ「お姉ちゃん、空に浮かぶ雲だよ」

ミカ「え?」


不思議顔で見上げるミカ。

ミカの上方に浮いている子雲。“ハァハァ”と荒い息を吐きながら、疲れている。


ミカ「雲……?」


“?”と首を傾げるミカ。

ピンとくるショウタ。


ショウタ「そうか、ぼくに会いにきたんだ」


呆れるミカ。


ミカ「何言ってるの?」

ショウタ「だってパパが言ったもん。オバサンの雲だって。チビだよ。やったー」


大はしゃぎするショウタ。

子雲を睨みつけるミカ。


ミカ「わたし、雲って大嫌い。出て行ってよ(と怒る)」


プンプンと怒り、頭から白い煙みたいなものを出す子雲。

(マンガみたい、と)笑うオバサン。


ショウタ「お姉ちゃん、ひどいよ」


口を尖らすショウタ。

子雲も、うんうんと頷く。

(偉そうに、と)呆れるオバサン。


ミカ「ショウタ、パパが言ったでしょ。 誰も入れちゃいけないって」


(それは意味が違うでしょ、と)首を傾げるオバサン。


ミカ「(子雲に)出ていきなさいよ」


モップを振り回し、追い出そうとするミカ。

モップにかき回され、散り散りになる子雲の体。その散り散りになった自分の体を拾い集めながら、逃げ回る子雲。


ミカ「早く出ていってよ」


モップを振り回しながら、子雲を追い回すミカ。

怒る子雲。ミカの頭に小さな雷を落とす。“パチパチ”くらい。


ミカ「痛い。やめてよ、もう……」


逃げ回るミカ。

同情顔のショウタ。


ショウタ「チビ、もう、やめてよ」


雷を落とすのをやめる子雲。ショウタの前に移動する。


ミカ「もぉ」


怒りながらも、ほっとするミカ。

子雲を不思議顔で見るショウタ。


ショウタ「チビ、触ってもいい?」


頷く子雲。

怖々、子雲に手を伸ばすショウタ。

子雲の体を通り抜けてしまうショウタの手。

あ、と驚くショウタ。

くすぐったくて、体をくねらせる子雲。 (“キャッキャッ”て感じ。)

調子に乗るショウタ。笑いながら子雲をくすぐる。

くすぐったがる子雲。

“コチョコチョ”“キャッキャッ ”て感じ。

カンカンに怒るミカ。


ミカ「絶対出て行ってもらうんだから」

ショウタ「オバサンのチビなのに、お姉ちゃんのバカー」


泣く振りをしながら、チラチラとミカを見るショウタ。

知らんぷりのミカ。

子雲、ショウタが本当に泣いていると思い、つられて泣いてしまう。(つまり、体が灰色になり、小粒の雨を降らせる。)

驚くミカ。


ミカ「嘘、やだ」


慌てて子雲の下に缶のゴミ箱を置くミカ。


ミカ「やめてよ。子供部屋が洪水になるでしょ」


(それは大袈裟よ、と)呆れるオバサン。

調子に乗って、大げさに泣く真似をするショウタ。


ショウタ「エーンエーン……」


“シャーシャー”と、雨を降らせる子雲。


ミカ「バカー(と怒鳴る)」


驚いて泣き止み、ミカを見るショウタと子雲。

ショウタと子雲を睨むミカ。


ミカ「ママにお留守番任せてって約束したのに、だから一生懸命頑張ろうって思ったのに、ママをがっかりさせてしまう」


悲しい顔で唇を噛み締めるミカ。

驚くオバサン。

反省するショウタと子雲。


ショウタ「お姉ちゃん、ごめんなさい」


机上の家族写真を見つめる子雲。

その写真にはミカ、ショウタ、パパ、ママ、おばあちゃん、オバサンが写っている。

その写真を見ながら、ニヤッと笑ったような子雲。

嫌な予感がし、毛が逆立つオバサン。

子雲の体がモゴモゴと動き始め、形を変えていく。

驚きと嬉しさのあまり、しゃっくりが出るオバサン。

(?と)首を傾げるショウタ。

まるで、白ブタのような子雲。


ショウタ「あ、白ブタだ」


頭から白い煙みたいなものを出して怒る子雲。


ショウタ「違うの? じゃぁ、何なの?」


得意顔で、写真に写っているママを指す子雲。


ショウタ「(不思議そうに)ママ~?」


ミカも子雲を見る。

宙を歩いている子雲。まるで白ブタが人間の女性の真似をして、お尻をフリフリ歩いている感じ。

ついに、踊り始める子雲。

腹を抱えて笑うオバサン。

プンプン怒るミカ。


ミカ「全然似てないわ。ママは痩せていて綺麗なんだから。失礼しちゃうわ」


子雲の雨が貯まった缶のゴミ箱を持ち、子供部屋から出ていくミカ。

落ち込んで、シュンとしている子雲。


ショウタ「チビ、元気出せよ」


嬉しくて、目をウルウルさせながらショウタを見つめる子雲。


ショウタ「でも、変身の才能はゼロだね(と笑う)」


がっかりする子雲。体を壁にこすりつけて拗ねる。

笑うオバサン。

怒って、オバサンに雷を落とす子雲。逃げ回るオバサン。追いかける子雲。

オバサンが見えていないショウタ。首をかしげ、不思議顔。

トレイを持って入ってくるミカ。トレイの上にはおやつのショートケーキとお菓子とオレンジジュースが乗っている。ショートケーキはちゃんと1個を半分に切ってある。


ショウタ「あ、おやつだ(と大喜び)」


トレイごとテーブルの上に置くミカ。

ショートケーキを食べ始めるショウタ。


ショウタ「美味しい」


羨ましい子雲。よだれを流しながら、ショートケーキを食べているミカとショウタを見る。

子雲を見るミカ。


ミカ「あんたは食べられないでしょ」


怒る子雲。頭から白い煙みたいなものを“ポッポッ”と出しながら。


ミカ「もォ……」


しかたなく、お菓子をひとつ手に持つミカ。子雲の前に差し出す。

目をキラキラ輝かせながら、お菓子に突進する子雲。“ビューン”て感じ。

しかし、通り抜けてしまう子雲の体。

キョトンとする子雲。


ショウタ「 アハハハ……」


腹を抱えて笑うショウタ。


ミカ「(呆れて)だから無理だって言ったのに……」


体を真っ赤にして悔しがる子雲。

お菓子をトレイに置き、子雲を横目で見るミカ。ケーキを口に入れ、わざと子雲に聞こえるように言う。


ミカ「あー、おいしいぃ」


懲りずに何度もお菓子に突進する子雲。が、通り抜けるだけ。

子雲がかわいそうになるミカ。


ミカ「ジュースなら飲めるかも……」


オレンジジュースを子雲の前に差し出すミカ。

嬉しくて、オレンジジュースを舐め始める子雲。


ショウタ「(嬉しくて)チビがジュース飲んでるぅ」


ミカも少し嬉しい。

お腹が膨れ、体がオレンジ色になる子雲。

ゲ、とゲップをする子雲。子雲の口からオレンジ色のシャボン玉みたいなものが”プワ”と出て、はじける。

思わず笑顔になるミカとショウタ。

嬉しそうにおやつを食べるミカとショウタ。

オバサンにじゃれつく子雲。嫌がるオバサン。


◯空

全体が灰色。

子雲が心配で、もっと濃い灰色の母雲。


◯川瀬さんチ・子供部屋

ミカとショウタはおやつを食べ終わっている。

外で、すごい稲妻が走る。

“ピカ”

すぐ近くに、すごい音の雷が落ちる。

“ドドド……”


ミカ・ショウタ「ヒィ」


固まってしまうミカとショウタ。

プツンと子供部屋のライトが消え、暗くなる(停電 )。


ショウタ「(震える声で)お姉ちゃん……」


思わずミカに抱きつくショウタ。


ミカ「 大丈夫よ。机の引き出しに懐中電灯があったはずだから」


移動しようとするミカ。が、ショウタが抱きついていて動けない。


ミカ「ショウタ、放してよ。取りにいけないじゃない」

ショウタ「だってぇ……」


何台もの車が表を走る。その度に、ヘッドライトが窓ガラス越しに入り込み、部屋の中を照らす。その明かりのせいで、机上の電気スタンドの影がお化けのようにヒューンと伸びる。

ミカとショウタには、お化けの笑い声も聞こえる。


お化けの声「ヒヒヒ……(と笑う)」

ミカ・ショウタ「うっ……」


息を飲み、 固まるミカとショウタ。

ミカとショウタには、時計の音も風の音も全てがお化けの声に聞こえる。

“カチカチ……” 

“ヒュ~……”

慌てて机に向かおうとするミカ。抱きついているショウタが邪魔で、机の脚に自分の足をぶつけてしまう。


ミカ「イタッ(と叫ぶ)」

ショウタ「(恐くて)お姉ちゃん、どうしたの?」


足をさするミカ。


ミカ「(涙声で)足ぶつけたの。ショウタのせいよ」


想像するオバサン。前足で後ろ足を摩りながら、武者震いする。


ショウタ「ごめんなさい……」


今にも泣きそうなショウタ。

家の前を走る車がなくなり、部屋の中がまた暗くなる。


ミカの声「これじゃ何にも見えない。懐中電灯取れないよぅ。どうしよー」


は、と気づくミカ。

ミカの後ろが少し明るくなっている。

振り返り、驚くミカ。

そこでは子雲が小さな雷を落としている。“パチパチ”と雷が落ちる度に薄く光り、部屋の中がぼんやりと見える。


ショウタ「(嬉しくて)お姉ちゃん、見えるよ」

ミカ「うん」


慌てて机の最上段の引き出しを開けるミカ。 が、懐中電灯は入っていない。


ミカ「(独り言で)ない。いつもここに入っているのに、どうして? 」


部屋が少し暗くなる 。


ミカ「あ、嘘……」


思わず後ろを振り返るミカ。

必死で雷を落としている子雲。が、雷は薄くなっている。それでも、一生懸命雷を落としている子雲。うーん、うーんと力んでいる感じ。


ミカ「チビ、もう少しだから頑張って」


慌てて他の引き出しも開けるミカ。が、懐中電灯は入っていない。

心配で子雲を振り返るミカ。

子雲の雷は今にも消えそう。


ミカ「あ、待って待って」


自棄になるミカ。


ミカ「もっ」


とショウタのおもちゃ箱をひっくり返すミカ。床を見て、あ、と気づく。

床に落ちている懐中電灯。


ミカ「(喜び)あった」


懐中電灯を手に取り、スイッチを入れるミカ。

懐中電灯に明かりが点く。

慌てて子雲を振り返るミカ。

懐中電灯の明かりに気づいていない子雲。まだ、必死に雷を落とそうと頑張っている。しかし、雷はほとんど出ていない。


ミカ「チビ、もう大丈夫だから…… 」


力尽き、そのまま落ちていく子雲。


ミカ「あ……」


子雲を受け止めようと手を差し出すミカ。しかし、子雲の体はミカの手を通り抜け、 床に落ちる。

疲れ切って寝てしまう子雲。


ショウタ「(心配顔で)お姉ちゃん、チビ、大丈夫?」

ミカ「(笑顔で)うん、ちょっと疲れただけよ」


懐中電灯の明かりに見守られながら、安心して眠っている子雲。

“ヒューヒュー”といびきの音。

子雲の寝顔を見下ろすミカとショウタ。顔を見合わせ、笑顔。

“よく頑張ったね”というように、子雲の頭をなでるオバサン。

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