第拾話 メイドのリズ

 



「サイ様~お風呂の時間ですよ~」


「もう俺は五つだぞ、いい加減一人で入れる」


「ダメです。サイ様のお背中を流すのがメイドたる私の仕事ですから」


「なんだそれは……」



 煩わしそうな顔を浮かべて逃げようとするサイ様をがっしりと捕まえる。

 ふっふっふ、逃がしませんよ。サイ様と一緒にお風呂に入るのが私の一日の楽しみなんですからね。



「ぐぬぅ」


(相変わらずお風呂が苦手ですねぇ)



 サイ様はお風呂が嫌いなのか、小さい頃から嫌だ嫌だと言って中々入ろうとしてくれませんでした。ミシェル様が連れ添って強引に入れてもすぐに一人で抜け出してきてしまうので、代わりに私が一緒に入ることになったのです。


 私ならサイ様を逃がさず捕まえておけますからね。

 ですが、初めの内はサイ様も諦めませんでした。抱っこしていたのにも関わらず、気付かぬ内に上着だけだったりクッションと入れ替わっていたりと、あの手この手を使って逃げようとしたのです。


 私がしつこく追いかけると、流石のサイ様も諦めたのか、言う通りにした方が早く終わると悟ったようですけどね。



「せめて布を巻いて身体を隠したらどうだ」


「そんなことしないですよ。あ、サイ様も腰に布を巻かないでください」



 メイド服を脱いで裸になっていると、サイ様が目を背けながら注意してきます。サイ様は子供ながらに聡明で大人びていますが、性に関しても“おませ”さんです。


 今のように私が裸になると必ず視線を外したり、顔を赤く染めながら注意してくるんです。二歳の時からそうだったので、凄く驚きましたよ。


 まさか二歳児が“そういう知識”を持っているなんて思わないじゃないですか。でも、サイ様ならあり得るんですよね。反応も明らかに知っているっぽいですし。


 ですが、それがまたからかいがいがあっていいんですよ……ふふふ。



「さぁサイ様、お背中を洗わせていただきますね」


「リズの場合、背中だけじゃないだろう」


「ええ、そうですとも」


「はぁ……勝手にしてくれ」



 石鹸を手に取って泡立てた両手で、サイ様の背中を摩っていきます。布なんか絶対に使いません。サイ様のきめ細かな肌を傷つけられませんから、手で丁寧に撫でるように摩っていきます。勿論、背中だけではなく全身隈なくですけどね。



(大きくなられましたね……サイ様)



 小さい頃と比べて、サイ様の背中は大きくなられました。

 まだ子供ではありますが、小さい頃を知っている私からすれば時が経つのを感じてしまいます。

 本当に、人間の子供は大きくなるのが早いですね。



 ◇◆◇



 私はエルフのリズ。

 ゾウエンベルク家に仕えるメイドです。


 私とゾウエンベルク家については長い回想になってしまうのでカットしましょう。私のことなんかより、サイ様のことを語るのが重要です。



「う……痛い! あぅ……!」


「頑張ってください奥様! あともう少しですよ!」


「あぁ!!」



 ディル様の奥様であるミシェル様は、妊娠を二度失敗しました。それでも諦めず、自分の子を生むことを望んでいます。

 三度目にしてついに、子が無事に生まれたのです。



「はぁ……はぁ……」


「奥様、旦那様、元気な男の子ですよ」


「よく頑張ったね、ミシェル」


「無事に生まれてきてくれてありがとう」



 毛布に包んだ赤子をお渡しすると、ミシェル様は心底幸せそうな笑みを浮かべました。これまでの苦労と悲しみをしっている私は、ミシェル様が赤子を抱く姿を見て嬉し涙が出てしまいましたよ。

 ここにいる者が、どれだけこの日を待ちわびたことでしょうか。



「サイ。この子の名前はサイよ」



 ミシェル様が赤子にサイという名前をつけられました。

 とても良い名だと思います。

 サイ様……ああ、なんて可愛いらしい子なのでしょうか。鼻も口も指も全部が可愛くて愛おしいです。



「ねぇディル、サイが全然目を開かないの。何かの病気かしら……」


「どうだろう……苦しんだり熱があったりする訳でもないんだろう?」


「はい。身体自体は健康そのものです」



 生まれたばかりのサイ様は元気に泣き、お乳も沢山飲んで健康な赤子なのですが、一つだけ問題がありました。


 その問題というのは、眼が全く開かないことです。サイ様は誕生してから一度も目を開いておりません。異常がないか診てみようとしたのですが、瞼自体が開かないんです。まるで、絶対に開かないように固くくっついています。


 医者にも診てもらったのですが、原因は分かりませんでした。

 奥様は病気じゃないかと凄く心配されましたが、ディル様が様子を見ようと励ましてくれました。



「あうぅ~」


「サイ様? まぁ!? 奥様、サイ様が目を開かれましたよ!」


「本当!?」



 半年程経った頃、ようやくサイ様が目を開けられました。

 それに気付いた私はすぐにミシェル様を呼びます。実は、このまま一生目が開かないのかと心配していたのですが、無事に目を開けられて心の底から安堵しました。


 サイ様も母親を初めて見られて嬉しく思っていることでしょう、と微笑んでいたら、突然奥様が取り乱してしまいます。


 どうやらサイ様が急に意識を失ってしまわれたようです。恐らく、初めて見た景色に脳の処理が耐えられず気絶してしまったのだと思いました。


 ですが、その考えは違ったようです。



(魔力反応? いったいどこから……サイ様の目からですって!?)



 サイ様がまた目を開けて、私のことをじぃっと見てきました。

 黒くてつぶらな瞳がなんて可愛いんでしょうと身悶えていたら、魔力の反応が感じられたのです。

 しかも信じられないことに、サイ様の目から感じられたので驚きました。



(まさか、魔法を使っている?)



 赤子が魔法を使っているなんてとても信じられませんが、そうとしか考えられませんでした。それなら、サイ様が苦しそうに寝てしまわれることにも辻褄が合います。魔力が急激に失われると起こる魔力欠乏症に間違いないでしょう。


 どうやらサイ様は、“何かを見た時に”無意識に魔法を使ってしまうのでしょう。ミシェル様はとても不安を感じていましたが、ディル様が大丈夫だと励まします。


 サイ様が成長し、魔法に耐えられる身体になれば目を開け続けていられるようになると。私も同意見です。


 魔法は使えば使うだけ、内包できる魔力量は増えていきます。それもこんな赤子から魔力欠乏症になるまで魔法を使っていたら、あっという間に成長するでしょう。

 ただ、魔力欠乏症は死の危険性があるので、私達が目を離さず見守ってないといけません。



「あ~ぅ~」


「サイ様、あれは時計と言います」


「と……えい」



 目を開けられるようになってから、サイ様は屋敷にあるものを興味深く観察してはぶつぶつと喋っていました。その時に魔法も発動しております。以前までは目を開けた瞬間に魔法を発動していましたが、今では観察する時だけ魔法を使われております。


 様々な条件を組み合わせて、サイ様が発動している魔法は『鑑定魔法』の類ではないかと私は推測しました。



「リズ、これは何て呼ぶんだ?」


「これはトイレとおっしゃいます」


「そういう発音なのか」



 一歳の誕生日を越えた辺りから、サイ様が劇的に変化しました。

 二本足で立てるようになり、言葉もすぐに覚えて上手く喋れるようになりました。上手いどころか「どこでそんな言葉覚えたの?」と首を捻ってしまうぐらい、堅苦しい喋り方をします。


 サイ様は賢く聡明で、一歳児なのに大人と話しているのではないかと錯覚してしまいます。誰かが乗り移ったのではないかと疑うほど別人になったのですが、魔法のこともあるし、サイ様は特別な子なのだと割り切りました。


 ただ、音もなく背後に忍び寄るのは止めて欲しいですけど。どんな歩き方をしているのか分かりませんが、サイ様って絶対に足音を立てないんですよね。急に声をかけられると心臓に悪いです。



「こら、サイ様。また魔法で私を見ましたね。それはやっちゃダメだと何回も言いましたよね? サイ様のお体を心配しているから注意しているのですよ」


「すまない」



 赤ん坊の時は注意できませんでしたが、大人のように考えられるようになった今のサイ様に魔法を使ってはいけませんと注意しております。


 魔力量が増えたとはいえ、サイ様は魔力欠乏症になるまで魔法を使いますからね。死ぬ危険性があることを大事なサイ様にさせられません。

 まぁ、私がいくら注意してもサイ様はこっそり魔法を使ってしまうんですけど。



「何故分かるんだ?」


「ふふ、それは秘密です」


「ぬ……」



 サイ様は何故魔法が使わっているのが私にバレているのか不思議そうでしたが、私には分かるんです。魔法を使えば魔力の反応を感じられるし、なにより魔法を使う時サイ様の瞳が“紅色”に変化し、うっすらと模様が浮かびあがっているからです。


 ですが、その変化は私しか分からないようです。ディル様やミシェル様には見えていないようですからね。



「そういえば、何か御用でしたか?」


「ああ、魔法とやらについて知りたくてな。リズなら詳しいと思って聞きにきたんだ」


「サイ様に魔法はまだ早いです。もう少し大きくなったら教えますよ」


「そうか……」



 そんな悲しそうな顔をしないでくださいサイ様。

 私だってできることならサイ様に魔法を教えて差し上げたいです。ですが、もし魔法を教えてしまえばサイ様は倒れるまで魔法を多用してしまうでしょう。


 ただでさえサイ様はこっそり鑑定魔法を使っているのに、魔法まで教えたらまた魔力欠乏症で今度こそ死んでしまうかもしれません。


 もう少し大きくなり、魔法に耐えられる身体になってから教えようと思います。そう伝えたら、サイ様も理解してくれました。やはりこの子は聡い子ですね。



「クッキーを作りましたので食べませんか? 紅茶も用意しましたよ」



 二歳になってから、アルフレッドさんによる勉強が始まりました。

 ですがサイ様は勉強が苦手なのか「うむぅ……」といつも唸っています。これは意外でした。サイ様は子供ながら賢いので、てっきり勉強もおちゃのこさいさいだと思っていましたから。


 サイ様が苦戦している姿を見せるのは珍しくてとても可愛いらしいのですが、この爺はそれが見たいが為にきつく指導しているふしがあります。


 そんなの許せません。なので私が、こうやってお菓子を差し入れしてサイ様を救っているのです。まぁアルフレッドさんにとっては勉強の邪魔でしょうけど。だからそんな恐い顔で睨まないでくださいよ。



「うむ、美味い」


「それは良かったです」



 美味しそうにクッキーを食べるサイ様を見れて、作った甲斐がありました。

 基本的にサイ様は笑ったりしません。というより、いつも無表情で他人に感情を見せないんです。子供なのに、笑ったり泣いたり怒ったりしないんですよねぇ。


 大人びているというか、達観しているというか。

 私的にはクールで素敵なんですけど。


 でも、そんなサイ様も感情を露にする時があります。

 それは甘いお菓子を食べている時です。サイ様は甘いお菓子が好きなのか、食べている時だけ表情がほっこり柔らかくなります。


 そのギャップがたまらないんですよね。特にお菓子を食べている時は最高ですよ。



「サイ様、チョコもどうぞ。はい、あ~ん」


「おい、一人で食べられる」


「ダメです。あ~んしないとあげませんよ」


「くっ……仕方ない」



 大好きなチョコの誘惑には勝てなかったのか、観念して瞼を閉じます。開いた口の中に、指と一緒にそっとチョコを入れました。。

 するとサイ様は口の中でチョコを転がしながら――、



「~~~~!!」


(んぎゃわいいいいいいいいいいいいい!!)



 美味しくてたまらないのか、それはもう幸せそうな顔を浮かべました。恐らく本人は気付いていらっしゃらないと思いますが、足もパタパタ動いて大変可愛いです。


 チョコの威力は凄まじいですね。

 仕入れるのは少々大変ですが、沢山ストックしておきませんと。サイ様のこの笑顔を見られるのなら、財布の中身がどうなろうと知ったこっちゃないです。


 ああ……それにしてもなんて可愛いらしいんでしょうか。今すぐ抱きしめて頬擦りしたい。

 あ……やばい、鼻血でてきた。ちょっとアルフレッドさん、汚物のような眼差しでハンカチを渡さないでくださいよ!



「サイ様、今日から私が魔法を教えてさしあげます」


「う、うむ……」



 サイ様が四歳になった頃、私はサイ様に魔法を教えることにしました。

 本来は六歳ぐらいまで教えたくはなかったのですが、サイ様の魔力量がとんでもない量になっていることと、私があれほど注意しても無視してやっている鑑定魔法のお蔭で魔法への耐性がついたことから、魔法を教えてもいいと判断しました。


 それと強いて言うなら、アルフレッドさんがうざかったぐらいですかね。


 あの糞爺、「サイ様は鬼神の生まれ変わりだ。天賦の才を持っている」と年甲斐もなくはしゃいでい自慢してきたんですよ! それも一日中ね!


 それがもうムカついてムカついて、サイ様は絶対魔法の方が優れた才能を持っていますよ! それを証明してやりたいという気持ちも無きにしも非ずなのです。


 とりあえずサイ様に魔法についてどこまで知っているか聞いてみたところ、知らないと返ってきました。

 おかしいですね。てっきり自分の意思で鑑定魔法を使っているから“さわり”くらいはご存知だと思ったのですが。



「えっ、そうなんですか? ですがいつも鑑定魔法を使って色々なものを見ているじゃないですか」


「俺が使っているのは魔法ではなくて、ユニークスキルというものだ」


「ユ、ユニークスキル!? それは本当ですかサイ様!?」


「あ、ああ……本当だ」



 なんてことでしょう、サイ様が使っていたのは魔法ではなくスキルでしたか。


 魔力反応があったのでてっきり魔法だと決めつけていましたが……スキルとは盲点でした。確かに、スキルならば無意識に発動してもおかしくありません。そもそも生まれたばかりの子が魔法を使うのはあり得なかったんですよ。何で気付かなかったんでしょう……私のバカ!


 しかもサイ様の場合ただのスキルではなく、鑑定眼というユニークスキル。

 鑑定魔法の能力が直接“眼”に宿っているのでしょう。俗に言う“魔眼”というものですね。


 ですが、ただ鑑定するだけならユニークスキルにはならないと思います。鑑定眼には他に秘められた力が宿っているのでしょう。

 その力を開眼させられるかは、サイ様の努力次第ですが。


 それにしても、サイ様がご自身の秘密を教えてくれて私は嬉しいです。なんとなくですが、サイ様は秘密を隠しているような気がするんですよね。

 一歳の頃から急に大人びたのも、何か怪しい気がしますし。ただ私の勘でしかないので、本人に聞いたりはしてませんけど。



「と、話が脱線しましたね。サイ様が使っていたのは魔法ではなくスキルだったということで、改めて魔法というものは何かを教えましょう」



 気を取り直してサイ様に魔法とは何かを説明します。

 やはりサイ様は聡明で、魔法の仕組みを理解していました。普通子供が聞いたらチンプンカンプンになってもおかしくないんですけどね。


 ただ、魔法を見せたら子供のように感動していました。

 こんなに喜ぶなんて、サイ様は魔法が好きなんでしょうか。


 魔力を感じられるか試したところ、サイ様は私が流した魔力を一瞬で感じ取ることができました。結構ここで躓く子供が多いのですが、やはりサイ様には魔法の才があります。


 さぁ、という事で本番にいきましょうか!



「【水を生む魔法アクリオ】」



 とサイ様に呪文を唱えていただいたのですが、発動しませんでした。失敗というより、発動する気配もなかったのです。


 残念ながらサイ様には水属性の適正が無かったのでしょう。他ならどうかと試してみたのですが、なんとサイ様は全属性の魔法を扱うことができませんでした。



(そんな……信じられない。四大属性だけではなく、光や闇などを含めた全属性の初級魔法を試してみましたが、ついぞ魔法が発動することはなかった。魔力も感じられ、既に宮廷魔術師以上の魔力量が備わっているのに、サイ様には魔法の才が欠片も無いというの? ああサイ様、こんなに落ち込んでしまってなんておいたわしいのかしら……)



 なんてことでしょうか。

 これほどの魔力を持ちながら、魔法を使うことができないなんてあるのでしょうか。あれだけ魔法が使えるのを楽しみにしていらしたのに、魔法の才が無いなんてあんまりですよ。


 あぁサイ様……可哀想に。

 せめて今日は大好きなチョコを奮発してあげますからね。



 ――と、思っていたその矢先。



 突然地面が激しく揺れます。

 何が起きたのかと驚いて振り返れば、サイ様の背後に巨大な土壁ができていました。一瞬であんな壁ができるなんて、いったい何が起こったのでしょうか。


 考えられるとしたら、サイ様が魔法を使ったか。答えを知ろうとサイ様に尋ねしました。



「さ、サイ様……? いったい何をされたのですか?」



「ま、魔法だ」



 やはりサイ様が魔法を使ったようでした。

 ですが、先程まで全属性の魔法を試して使えなかったのに、何故急にできたのでしょうか。サイ様にもう一度やってみて欲しいと頼みましたら、信じられないことが起こりました。



「こ、これは……!?」



 私は驚きました。

 サイ様は火を吹いたり、水の球を放ったり、風の刃で木を切り倒しました。どれも魔力を使用した初級魔法のように思えるのですが、私の魔術師としての経験が「これは違う」と訴えてかけてきます。


 だってサイ様、呪文を一切唱えていませんから。

 しかも魔法が発動する前、両手を素早く使って変な組み方をしているのです。私の勘では、この手を組むのが呪文の代わりになっているのかと思いますが……。


 問題なのは、私でも知らないやり方をどうしてサイ様が知っているのかです。



「サイ様、そのやり方はどこでどう知ったのですか? 誰かから聞いたのですか?」


「う、うむ……“なんとなく”こうすれば魔法が使えると思ったのだ」


「へぇ……“なんとなく”ですか」


「……」


「はぁ……いいでしょう」



 サイ様、また隠し事をしましたね。

 折角心を開いてくれたと喜んだのに悲しいです。ただ、通常ではないですがサイ様が魔法を使えるようになったのは喜ぶべきでしょうね。戦う手段が増えたのは何より良い事ですから。


 いつか本当のことを教えてくだされば、今は目を瞑ってあげましょう。



「という事で、サイ様は魔法が使えるようになりました」


「そうか……アルフレッドからもサイの剣術や武術の才はずば抜けているって聞いたけど、魔法も凄いのか。しかも鑑定眼っていうユニークスキル持ちとはね……サイには驚かされてばかりだよ」



 久しぶりに帰ってこられたディル様に、サイ様について報告しました。

 どうやらあの糞爺もサイ様のことを報告したみたいですね。仕事が早くて結構ですよ……けっ。



「もしかしたらサイは神に見初められた特別な子なのかもしれない。でも、大きな力には危険が付きまとうものだ。リズ、どうかサイを注意深く見てやって欲しい。あの子を守ってくれるかな」


「はい。命にかえてもサイ様をお守りします」


「ありがとう。僕は側に居てあげられないから、リズやアルフレッドが頼りだ。よろしく頼むね」



 ◇◆◇



「もう出ていいか? 熱くてかなわん」


「あと二十秒数えたらですね。はいい~ち」


「ぬぅ……」



 サイ様が逃げられないように、小さな身体を抱き締めながら数を数えます。

 こんなに気持ちが良いのに、サイ様はどうしてお風呂が嫌いなのでしょうか。私としては、サイ様が嫌いだと得するんですけどね。



(こうしてサイ様とくっつきながらお風呂に入れる口実になりますからね)



 ああ、サイ様。

 私はサイ様が可愛いらしくてかっこよくて愛おしいです。いつまでも、一緒にお風呂に入りましょうね。



「二十一~」


「もういいだろ!」

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