第10話

「クソが! あいつに気付かれた! 散れ!」


 リーダーの飯島の声に、すぐに六人が周りに散っていく。


 全員が血走った目を光らせて俺を探し始めるが、暗化した俺はそう簡単には見つけられずにいる。


 俺はベルを鳴らしてまた近くの陰に隠れた。


 しかしこのままではいずれバレる。『降臨』も180秒しか持たないし、そろそろ一回目が切れる。


 残るはあと六回。しかもそれを使って逃げ切れる可能性もかなり低いと思う。


 となると、ベルの音で焦っている彼らを迎え撃った方がいいか。




 ――――「これからは――――全ての理不尽を俺が・・ぶった切ってやる!」




 あの日、俺は覚悟を決めたはずだ。


 逃げてばかりじゃ結月を助けることなんてできない……!


 ちょうどメンバーの一人が俺の目の前を通った。


 その瞬間に『降臨』を解除する。


 さすがに上位探索者なのか、すぐに俺に気付いて、躊躇なく先に手を伸ばしてくる。


 だがそれは既に予想済みだ。


 『降臨合体』を使って戦闘向きの『デッドリースコーピオン』と『アビスキングモンキー』を解放する。


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【ステータス】

ジョブ:クラウン(デッドリースコーピオン&アビスキングモンキー)

レベル:降臨による停止

魔 力:4/7

 力 :640+1300

俊 敏:890+1800

頑 丈:1000+1200

耐 性:1000+1200

 運 :1+1000

【特殊能力】

・劇毒

・頑丈以下ダメージ無効

・瞬撃

・縮地法(弱)

・雷撃

・暗化

・麻痺完全耐性

・虚空

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 一気に俺の体が加速する。中でもデッドリースコーピオンの『瞬撃』は手が届く範囲への攻撃速度が異様に速くなり、アビスキングモンキーの『雷撃』を纏わせて、男を殴りつけた。


 ほんの一瞬だったが、男の体がぐったりとして倒れ込む。


 周りのベルの音がうるさすぎて、この一瞬の出来事が目立つこともなく、攻撃に自動付与されている『劇毒』のおかげか、男は体をビクビクとさせながらどんどん顔色が白くなっていく。


 『瞬撃』『劇毒』『雷撃』のコンボは想像していたよりも強力だな。


 『雷撃』に関しては、まだ『アビスキングモンキー』の性能は知らなくても戦ったときに強烈だったから必ずあると思ってた。それが予想通りになってありがたい。


 他にも通常種で使えていた『暗化』がそのまま使えるのはありがたい。


 残りスキル二つのうち『虚空』を発動させてみる。


 男に少しずつ黒い墨に塗られるように全身に広がっていき、十秒程で全身が真っ黒になるとそのまま粒子が散っていくように消えていった。


 ……これなら証拠を残さず、相手を消す・・・・・ことも簡単だな。


 今度は『暗化』と『縮地法』を同時に使う。


 夜ということもあり、病棟全体に消灯が施されているので『暗化』のまま廊下を進む。さらに『縮地法』によって今まで感じたこともない速さで走ることができた。このスキルはステータス俊敏値に関係なく一定速度で動くことができるみたいだ。


 ちょうどタイミングよく病室から患者達が溢れ出て、スタッフステーションになだれ込む。


 誰一人、飯島達を気にすることはない。


「クソッ! 早く探せ! ここであいつを逃したら俺達も兄貴に消されるぞ!」


 兄貴に消される……? 違法行為ではなく、別の要因でここにいるのか?


 騒がしくなった病棟で、もう一人のメンバーが見えたので一瞬で飛び込んで『瞬撃』『劇毒』『雷撃』のコンボによる攻撃を与える。


 正面からだと狙うのが難しいけど、こうやって影から闇討ちをする分には凄まじい効果だな。


 できればこいつらにはここに来た理由を聞きたいが、今の俺にこいつらを抑える余裕はない。それに、俺がこいつらを葬ったとギルドの上層部にバレるのもまずい。


 ここは――――全員消してやる。


 それから騒ぎに便乗して、メンバーを消していく。


 昔の俺なら……きっと恐ろしくて今にも弱音を吐き出して涙を流していただろう。


 けれど、今の俺には必ず成し遂げなければならないことがある。この程度のことで…………俺を殺しに来た者達を消すことくらいで、立ち止まっていられない!


 残りは飯島と則夫の二人になった。


 彼らはまだ自分達の仲間が消されたことに気付いていない。


 ちょうど180秒が切れたので、三度目の『降臨』を行う。


 『アビスキングモンキー』だけでは彼らを出し抜くことは難しい。だが『降臨合体』なら闇討ちで彼らに対抗できる。


 則夫を相手しても良かったが、飯島の方が近かったので彼を狙う。


 一気に距離を詰めて、彼の後ろから攻撃を指した。




 ――――だが、俺の攻撃は外れ、当たったはずの彼の体は、靄のように消えた。




「!?」


「なっ!? てめぇは…………神威真か? いや、そんなはずはない。あいつはFランク探索者だ。となるとてめぇはあいつを守る護衛か。やはりこの階層にあいつがいるんだな」


 どうやら俺だと気付かないみたいだ。


 『降臨』使用中は不思議な黒い外套とフードが付く。


 こうして顔を合わせても俺に気付かないってことは、『降臨』中は何かしらの効果があると見ていいのか?


 いや、今は戦いに集中だ。


 闇討ちは失敗したが、その原因がわからない。あの靄はまるで蜃気楼のような…………蜃気楼?


 それを試すために飯島に飛び込んで攻撃を試みる。


 今度は消えることはなく、俺の拳は飯島に届いた。


 だが――――届いた拳は彼の腕によって防がれ、『雷撃』を与えているはずなのにやつは動きが一切止まらない。


「俺を舐めんじゃねぇ!」


 飯島の蹴りが俺の体を直撃し、大きく吹き飛ばされスタッフステーションに激突した。

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