第9話
ステータスウィンドウと呼ばれているものは自分にしか見えない。
他人のウィンドウを確認する術を持たない上に、写真を撮るなどの行為もできないのでそこに書かれたものを誰かに伝えなければ、バレる心配はない。
念のため『アビスショップ』のウィンドウも試してみたが、こちらも俺にしか見えないようだ。
体の傷が癒えるまで毎日『アビスショップ』を眺めている。
ゲートが現れてから特殊なジョブが生成できる不思議な薬や装備を総じて“アイテム”と呼ぶ。『アビスショップ』に書かれているものも全てアイテムだと思われる。
その証拠に効果もいろいろ書かれていて、失った体を再生させる薬やスキルが強くなる武器などが並ぶ。効果も聞いたこともないが、少なくともモンスターの素材で作ったマジックウェポンは高額だ。ここで手に入る装備もかなり強力で高価なものと考えられる。
けれど、何より一番欲しいのは『ソーマ』。
どんな病でも治せる薬。
これがあれば……妹を治せるかもしれない。いや、絶対に治せる。妹を治す方法を探してここまで頑張ってきた。可能性があるものは全て信じてやりたい。
問題はアビスポイントがあまりにも足りないこと。
足立さんの言い方からすると、成長ゲートから帰還したのは俺しかいないと言っていたが、アビスモンキーの強さからしてCランクのままだから帰って来れないことには違和感がある。
仮にAランクの人があのゲートに入っても、出て来れるはず……十年間試していないはずがないよな。
そのとき、扉からノックの音が聞こえた。
「神威さん~入りますね~」
扉が開いて看護師が二人入ってくる。
「定期診断の時間ですよ~」
「はい」
看護師は慣れた手つきで脈やら俺の体を確認する。
「火傷がまだ少し残っていますけど、すぐに治ると思います」
「ありがとうございます。いつ頃、退院できるでしょうか?」
「このまま順調そうなので、明日先生に確認して頂いて問題がなければ、明日の夕方には退院できると思います」
ようやく明日か……。
夕方からだとすると、ゲートに入るのは明後日からか。
ひとまず、今日はゆっくりするか。
診断が終わって看護師二人が部屋を出て、スマホで周囲のゲート状況などを確認した。
その日の夜。
何気なく調べものをしながら時間を確認すると、0時を迎えた。
廊下に向けて耳を澄ませる。
この時間だと警備員が巡回する時間で、俺がいるフロアはちょうどこの時間に回る。彼らはわざと音を立てる靴で巡回しているようだ。
しかし今日は音が聞こえてこない。
入院してもう一週間になるけど、こういう日は初めてだ。
トイレに行くふりをして病室を出ると、夜なだけあって静寂に包まれていた。
ふと見たスタッフステーションには珍しく誰もいない。
本来なら看護師が常駐しているはずなのに……?
根拠はないけど、嫌な感じがして『降臨』を使って、アビスモンキーモードになる。
周りに暗闇があるなら、スキル『暗化』が使えるので、俺の姿が消えるはず。これはモンスターでも認識できてないようだったので、人間にも効くと考えられる。
残り180秒。
しばらく待って60秒が過ぎた頃、廊下の奥から複数の足音が聞こえてきた。
そこから現れたのは――――
「おい。いたか?」
「いえ、いません」
「ちっ。このエリアにいるのは確かだ。何が何でも探し出せ」
「りょうかい」
七人の男。
あの日、俺を騙してゲートブレイクを成功させた飯島達だった。
何故こんなところに……? いや、目的なんて決まっている。あの日、彼らがやったのは探索者法に違反しているし、バレてしまったら殺人事件として普通の方よりも重い刑が施されるからだ。
しかしこんなにも堂々と病院に忍び寄るなんて思いもしなかった。その上に、俺は病室に名札もないくらいで、秘密裏に入院していることになっているという。
一般病院にしたのは、俺が初めての帰還者であり、国内外で狙われる可能性が非常に高いために、敢えてフェイクのために通常病院に入院したことになっている。どうやら俺のフェイクとして別の人がギルド直営の病院に入院しているという。
それなのに彼らはどうして俺がここに入院しているって知っているんだ?
いや、今はそんなことより、彼らに見つかれば命はないと思われる。
彼らはあのCランクゲート内でも余裕を持って戦っていた。恐らく全員がBランクもしくはAランク。それは日本の探索者の中でもトップクラスの探索者のはずだ。
仮に『降臨合体』を使ったとしても、彼らに勝てるかどうか……。となるとここから逃げた方がいいか?
だがここまで堂々とやってきたってことは、彼らもそれなりに準備をしたはずだし、七人だけとも限らない。仲間が見張っていたら?
早朝になれば誰かが異変に気付くかもしれないが、今はちょうど0時を回ったところ。気付かれる数時間も見つからずに隠れることは非常に難しい。
それにしても看護師や警備はどこに……?
ふと近くに赤い光が見えた。
これなら……何とかなるかも知れない。
俺はタイミングを見計らって、彼らの死角ができた瞬間に陰から飛び出て、赤い光が灯っている消火栓のボタンを押しこんだ。
バチッと押された音と一緒に、フロアにある非常ベルの音が一斉に鳴り響いた。
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