第8話

 とあるビルの最上階にある部屋。


 大きな体を持つ一人の男が、鋭い目を光らせて窓の外を見つめていた。


「レ、レイジの兄貴……す、すみません……」


「…………」


 男の方向で全身を震わせながら冷や汗を滝のように流しているのは、神威かむいまことを死の淵にいざなったパーティーのリーダーの飯島いいじまつよしだった。


「くくくっ」


「兄貴……?」


「剛。お前……まだあんな遊びを続けていたのか」


「す、すみません……」


「くくっ。仕方ねぇな。だが今回の一件はある意味では運がいい」


「運がいい……ですか?」


「お前が陥れたあの男。成長ゲート崩壊からの初めての帰還者だ。これは――――高く売れるぞ。剛。すぐにあいつを拉致って来い。海外に売り飛ばせばかなりの額になる」


「ですけどまだ病院に……」


「おいおい。剛……お前」


 男が振り向いて飯島を睨む。


「ひい!?」


「いつから俺に言い返すようになったんだ?」


「も、申し訳ございません! 今すぐに行きます!」


 飯島が慌てて部屋を出ると、一人の女性が入ってきた。


「レイジ様。まだあんなクズを飼っていたんですか」


「おいおい。そう言ってくれるな。あれでも――――昔は俺が覚醒する前によくしてくれた仲間なんだぜ」


「仲間ですか。貴方らしくありませんね」


「くくくっ……俺の最後の良心ってわけよ」


「良かったんですか? 病院を襲撃させたら彼らは無事で済むとは思いませんけど」


「さあ、そこは~あいつ次第さ。それより帰還者の情報は出回ったか?」


「いえ。政府やギルドが全てを隠ぺいしました。報酬は支払われたようですが、どこの誰かも全て削除されていて追うことは不可能だと思います」


「がーはははっ! 天は俺様に味方したな! まさか帰還者を知っているのが俺様だけとは! 実験大好きなあの国にでも恩を売っておけば、大金どころの騒ぎじゃないな」


「はい。すぐに輸送できる体制を整えておきます。それと、どうやら犬が嗅ぎまわっているみたいですがどうしますか?」


「――――処分しろ」


 女性が部屋を出ると、レイジと呼ばれた男は静かに笑い始めた。




 ◆




 今の俺の現状を確認する。


 やはり魔力は0時になると回復した。これで一日魔力7を使えることになる。


 そもそも魔力が上昇した例はないため、これから先も俺は魔力7に向き合わなければならない。


 次にスキルだ。俺が現在使えるスキルは三つ。


 そのうちスキル『吸魂』は自動発動と見て間違いないだろう。いや、普通に倒したのでは発動はせず、降臨もしくは他のモンスターを利用して倒した場合のみだ。


 では直接使える二つのユニークスキル『降臨』と『降臨合体』の二つ。


 ユニークスキル『降臨』は『吸魂』で手に入れた魂を解放して強くなれる。代わりにレベルは上がらないから魂以上に強くなるには他の強いモンスターの魂が必要だ。さらに一度使うと180秒しか持たず、途中で別の魂に差し替えた場合、先に使った分は消えて上書きになっている。そして、毎回魔力1を消費するので、現在俺は一日7回しかこの力を使えない。


 ユニークスキル『降臨合体』は二つの魂を解放する代わりに、魔力をその分、倍消費する。その上『降臨』使用中に上書きした場合、秒数は前に使っていたものが引き継がれる。使うなら最初から同時に使うのが一番効率がいいことになる。


 魂二つ分の強さを持てるので、ここぞという時に使うべきか。


 最後に一番重要なものだ。


 ユニークスキル『降臨』を使ったとき、体が全快するってことだ。これは『降臨』の特殊な効果と見ていいだろう。これはこの先のことを考えれば非常に強力な力だ。死なないで魔力さえあればいつでも復活することができる。これは何かと使える。


 今すぐにでも使って体を治癒させたいんだけど、それではスキルを持っていると言うものなので、自然に治るまで大人しくしよう。


 俺は支給されたスマホを利用して、昔の記事を読み始めた。


永倉えいくらつかさ。元日本国籍のSランク探索者。全世界Sランク戦闘ランキング9位。相沢あいざわかなえ。永倉司の元恋人。日本で初めての“魔欠症”を発症した者。国は相沢叶を治療することと引き換えに、永倉にSランク探索者として働かせた。当時の最先端の技術でも“魔欠症”は治療できず、何とか延命だけできたが、それも最長で一年半しか持たなかった」


 このとき使われた延命方法は今でも使われていて、結月に使われているものと同じものだ。


「しかし、当時の国はその事実を全て隠ぺいし、永倉を駒として使い続けた。三年後、自身の恋人が死んだことを知った永倉は、日本国最大の人身事件となる“血のクリスマス”を決行。当時日本国最大街であった東京を半分も崩壊させ多数の死者を産んだ。さらに永倉は日本国を出てテロ組織を立ち上げ、世界を相手に戦争屋となり、日本国にも多大なる被害を与える存在へとなった……と」


 この事件は非常に有名で、このときに指示を出した上層部は全員が責任を取って辞任したらしいけど、辞任が責任を取るというのは不思議なことだ。隠ぺいせずにちゃんと向き合えていれば、希代の殺人鬼と呼ばれる永倉を産まずに済んだはずなのに……。


 まあ、当時のことを俺がとやかく言っても仕方がない。大事なのは――――今、俺の現状だ。


 俺が国や探索者ギルドに能力を秘密にしたい理由はこれだ。


 ギルドは探索者を高い確率で縛ることがある。もし俺が戦えるスキルが手に入ったと知ると、いろいろ検証だの研究だの、自由を全て奪われかねない。それでは妹を治す手立てを見つけるのは難しい。


 残った期間はたったの半年……必ず手立てを…………そういや、あのゲートのボスを倒したとき、“アビスポイント”なるものを手に入れたような……?


 まだあれについて調べてなかったな。


 心の中で“アビスポイント”を強く意識する。


 俺の前にいつもの青とは違う、赤い背景のウィンドウが現れた。


 そして――――そこにはいろんな品目と効果、必要ポイントがずらりと並んでいた。


 その中で、それを見つけた。


---------------------

【アビスショップ】

アビスポイント:100

 ~

・ソーマ:全ての病を治す薬

 ┗必要ポイント10,000

---------------------


 俺の心臓は高く跳ね上がった。

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