第7話
視界が不思議な光で揺らいでいく。
これはゲートを通る際に見える現象で、初めこそ神秘的な光景にあっけに取られていたけど、今では恐怖の象徴となっている。
だが、今の俺にとっては希望の光となった。
気が付くと、俺は地面に倒れていて、周りに大勢の人が立っていた。
「ゲートから誰か出てきたぞ!」
「救急車だ! 急げ!」
「大丈夫ですか!?」
すぐに俺を取り巻く人達に唖然としていると、視界に大橋が映った。
ここは……ゲートに入ったときのところか。
「火傷が酷い! 誰か応急手当を……!」
「大丈夫です……意識もありますし、救急車だけで十分です」
そう答えると、女性は心配そうに俺を見下ろした。
誰かからこういう風に心配されたのはいつぶりだろうか。
そんなことよりも――――彼らの奥に俺を見捨てたパーティーの連中が見える。
彼らは苦虫を嚙み潰したような表情をして、俺のところに来ようとする。
そのときだった。
「こちら防衛隊です! 皆さんは下がってください!」
すぐに防衛隊員がなだれ込んで、消滅したゲートの計測をしたり、俺の容態を確認したりする。
自衛隊もいれば、彼らだって表立って手を出すことはないだろう。
このまま国が管理する探索者ギルドに報告してもいいのだが……あまり悪目立ちはしたくない。幸いにも俺のレベルはまだ10。スキルは自己申告制なので見られない限りバレることもない。
少し待っていると救急車がやってきて、俺は重症ということで緊急入院することになった。
◆
病室のベッドに横たわって窓の外を見ると、すっかり暗くなっていた。
お父さんの飯を作らないといけないのに……この状態では帰してもらえないだろうしな。
ようやく妹を救う手立てが見つかったのに、父さんから縁を切られでもしたら、俺と妹の関係は切られてしまう。
そもそも俺と妹の間に血の繋がりはない。俺は母さんと前の父さんの子だ。今の父さんとは一切の血が繋がっていない。
もし最悪なことに縁を切られれば、俺は妹に面会することすら叶わなくなるし、延命装置も解除になるはずだ。とくに“魔欠症”は不治の病として、死亡確定とされている。そんな病に国から延命など施すはずもなく、家族という繋がりのない俺では彼女を支援することも不可能だ。
だから何が何でも妹や父さんと家族でいることが俺にとって一番大事だ。
扉をノックする音が聞こえて、見知った顔の人と二人の男の人が入ってきた。
「神威くん。療養中に申し訳ありません。少し話を聞かせていただけますか?」
国家保安事業の一つ『探索者ギルド』。
探索者達の個人情報を管理し、仕事を斡旋して仕切る組織で、日本で探索者ギルドに参加せずにゲートに侵入することはほぼ難しい。仮にバレたら違法として捕まることになる。
それもあって殆どの探索者はギルドに所属し、彼らの指示を仰ぐことになる。
足立さんは、ギルドの上層部の一人だ。
「構いません。意識はしっかりしてますので」
「助かります」
開けられたカーテンが閉められ、何やら不思議な魔道具を発動させた。
魔道具はゲート内で手に入った素材で作れる不思議な道具で、ゲート内でしか手に入らない未知のエネルギー魔石を使って動かすことができる。
「これは一時的に周囲とここを断絶する魔道具です。ここで話したことが外に漏れることはありません」
「?」
「神威くん。今日あったことを全て話してください」
やはりそういうことか。ただ、ここまで大袈裟にするってことは……何か大きく気になることでもあるみたいだな。
ここは一つ、あれがバレないように上手く騙さなければ……。
「えっと……仕事がないかたまたま歩いていたら、成長中のゲートを見つけてました。そこで飯島さん達のパーティーが人数が足りずにゲートブレイクに参加できないってことで、誘われました。中に入ったのはいいんですが、ボスモンスターと戦っている最中にサソリモンスターに襲われて必死に逃げてたら刺されてしまったんです。それからは目を覚ましたら外でした」
俺の話を聞いた足立さんは手帳を見つめた。
「報告と違いますね。貴方はボスモンスターのワームによって殺されたと聞いてますが」
「いいえ……? 俺はサソリモンスターにやられました」
「…………これは失礼しました。報告を修正しておきましょう」
なるほど。たぶん俺が嘘をついていないかふるいにかけたんだな。先にあの連中から報告を聞いたってことは、国にとって何か大きなことが起きた……?
「あの……足立さん? こんな尋問みたいなのは初めてなんですが、何かあったんですか?」
一瞬だけ足立の眉がビクッと動いた。
「……正直に話しましょう。貴方は現在……世界的にも非常に珍しいことをやり遂げたのです」
「俺が……ですか?」
「ええ。貴方は人類初の――――崩壊したゲートから復帰した者なんです」
ん……? ゲートから初めて復帰した者……?
「あの……ゲートから弾き出されるのは普通なのではないんですか?」
「ああ。ちょっとややこしい言い方になりましたね。完成したゲートが崩壊して、中に残った場合、ゲート内から弾き出されます。その場合、どこに弾かれるかわからないのでとても危険だから、探索者の皆様には正面から出るように伝えていますね?」
「はい」
「ですが……成長中のゲートは違います」
「違う……?」
「はい。理由はわかりませんが、ゲートが完成する前にボスモンスターを倒してゲートブレイクをした場合、中に居残った人が帰ってきた事例は、世界でも神威くんが初めてなんです」
ということは……もしかしたら成長中ゲートをクリアして崩壊に残ると、あの変なゲート内に入るのか? アビスがどうこう言っていたし、可能性は非常に高そうだ。
「もしかして……俺のジョブが何か関わっています……か?」
「可能性はあるかと」
「足立さん! お、俺は……妹を助けたいんです! 何でもいいです! 俺のジョブが何かに使えるなら何でもします!」
「念のため調べさせてください」
「は、はいっ」
その後、魔力測定装置を出され、水晶のようなものに手をかざす。
「魔力は7、能力値は5……何も変わっていませんね」
「っ……」
俺は絶望したふりをする。
「神威くん。期待をさせてしまい申し訳ありません」
「い、いえ……」
「本日はご協力ありがとうございました。今回の入院は親御さんこちらから伝えますので」
「は、はい……」
魔道具を解除して足立達は帰っていった。
やはり測定器ではスキルを見つけることはできないんだな。それにレベルもそのまま……俺にとって都合がいい。
父さんのことは気になるが、入院したとなれば問題ないだろう。
その間、今の力を少しでも解明していこうと思う。
◆
(本人からレベルが上がったとは言わなかった上に、相変わらず能力値数に変化もなかった。魔力が変わることはないだろうが……レベルが10まで上昇しても能力値も上昇しないなんて相変わらず不思議なジョブだ。それに彼が世界初めての成長ゲートの帰還者……皮肉なものだ。世界最弱が人類最大の謎の一つを成し遂げるとはな)
部下達とともに病院を出た。
(それにしても……数値に変化もない。彼の反応にも大きな違和感はない。なのに…………得体の知れないこの違和感は何だ? 何もなさすぎることが……却って違和感を覚えてしまう。これも仕事の弊害なのか、それとも…………)
「足立さん。俺達はこれから例の者達を見張りに行きます」
「ああ。よろしく頼む。気を付けろ。相手は――――Sランク派閥だぞ」
「はっ」
去っていく部下達の無事を密かに祈る足立だった。
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