第11話
叫び声と共に患者達が我先にと非常口から逃げていく。
俺が直撃したスタッフステーションは、壊れた物で散乱した。
さすがCランクゲートでも簡単に倒していたってことだな。
やはり他のメンバーへの闇討ちがなければ、彼らを倒すことなんて叶わなかったってことか。
しかし『雷撃』が効かないところが気になる。『雷撃』は攻撃が当たったら雷が与えるのではなく、攻撃モーション中に俺の攻撃部位が雷を纏う。つまり、さっきのように彼が俺の腕を掴んだ場合、雷は彼に当たったことになるので、全身が麻痺するはずだ。
「ちくしょ……他のやつらはどこに行ったんだ! もしかして患者達に流されたか?」
やはり、仲間が消えたことに気付いてないんだな。
今度は縮地法を使って、やつの足を蹴り飛ばす。
バギッと当たって『雷撃』と『劇毒』が与えられたのは確認できたが、飯島はピクリとも動かない。
「ふん。その程度の攻撃、俺に効くわけ……っ!? こいつ! 毒と麻痺使いか!」
すぐに大振りで俺を殴りかけるが、スピードでなら俺の方が優位のようで簡単に避けられた。
「クソ野郎が……毒と麻痺両方使えるやつなんて聞いたことねぇぞ! 諜報系のAランクか……あいらさえいれば……」
興奮している彼はベラベラと現状を口に出す。それがわざとではなく、彼自身に全くの余裕がないことが伝わってくる。
そもそも病院を襲撃した以上、彼らに後はないはず。
あまり時間もないので三度目の攻撃を試みる。
幸いなことに毒は効き目抜群のようで、蹴られた左足がもたついている。
今度は右足を狙って飛び蹴るが、飯島はそれに合わせてライアットを狙ってくる。
当たる直前に体をずらして飯島の左腕を棒のようにして体を反転させて、相手の顔に膝蹴りをお見舞いする。
バゴーンと音が響くが、やつはほとんど効き目がないようだ。
だが当たった部位は確実に紫色に染まっていた。
「ク、クソがああああ! 攻撃力は低いのに毒だと!? ま、まずいっ!」
懐から何かを取り出そうとする飯島に再度攻撃を仕掛ける。
相手の攻撃を避けながら蹴りつけて、今度は俺がパンチを受けて飛ばされた。
受けた左腕がだら~んとなって激痛が走る。
歯を食いしばって痛みに耐えながら相手や残ったもう一人の気配を察知する。
則夫は未だこちらに気付いてない。
懐から瓶を取り出して飲み干した飯島。俺が打ち込んだ場所の紫色が一気に引いていく。どうやら毒消しポーションのようだ。
焦っていた飯島だったが、一気に表情が変わる。
「てめぇは左手を失った。もう俺には勝てねぇよ。黙って俺に――――殺されてろ!」
今度は攻勢に出た飯島の攻撃を避ける。
攻撃を避けるだけなら速度的に難しくはない。
だが……このままでは俺に勝ち目がない。なんせ強さが時限式だから残り100秒以内に決着を付けなければならない。
俺は武術なんて心得はないけれど、Fランク探索者として囮になるため、モンスターの攻撃をギリギリまで見極める練習と努力は常にやってきた。
それが功を奏したのか、飯島の攻撃のギリギリが見え始めた。
俺の攻撃を相手の懐に与えるのは非常に難しい。
でも相手の攻撃した腕に合わせてカウンターを当てることは簡単だ。
俺の顔の前をすれすれに通り過ぎる腕を殴りつけた。
「効かねぇよ! っ!? 毒か!」
飯島が一瞬下がったタイミングに合わせて、『縮地法』を使って左足を蹴りながら通り過ぎる。
「ちくしょ! 小賢しい!」
これなら……勝てる!
――――そのときだった。
「飯島さん!?」
「っ! 則! 今すぐ解毒ポーションを俺に投げろ!」
まずい……!
『縮地法』を使って則夫を蹴り飛ばそうとしたが――――彼もまた当然のように俺の蹴りに合わせて両腕で掴んできた。
「ぬわあああああ!?」
彼の全身に雷撃の電撃が走り、その場でうずくまる。
これで則夫は何とかなるか?
飯島を見ると、地面に瓶を投げながらニヤケ面で俺を見つめた。
「お前。良いスキルを持っているのに戦い慣れてないな? 本当に要人護衛なのか? こんな単純なトラップにすら気付かないし……体術も大したことないし……スキルとステータスに身を任せて戦ってる雑魚じゃねぇか」
……少なくとも飯島は俺とは違ってBランク以上のゲートも攻略していると思われる。自分とは比べ物にならないほどの猛者だ。
「どれだけ強くなったところで、お前達みたいな力をただ振りかざすだけの子どもになったんじゃ、せっかくの強さも嘆かわしいと思うがな」
「は……? お前……もしかして……神威真か!?」
「さあな。自分で確かめてみたらいいんじゃないか?」
第二ラウンドが始まった。
今度は極力飯島の攻撃を受けずに、こちらの攻撃を小刻みに当てにいく。
しかし飯島もそれをすでに読んでいて大振りな攻撃はせず、小ぶり且つこちらの懐を狙った動きを続ける。
70秒……。
60秒……。
50秒……。
40秒……。
段々と俺の心が焦り始めるのを感じる。
時間が切れれば、あと一回しか『降臨合体』が使えない。
このまま負けるのか……?
いや、俺は絶対に諦めない……!
そのときだった。
後ろで倒れていた則夫が起き上がる。
「麻痺かよ。もうこれでわかった。飯島さん! 挟み撃ちしましょう!」
「おう! 俺に合わせろ!」
狭い通路で逃げ場もなく、俺は最大のピンチを迎えた。
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