第3話

 ゲートの中は景色によって強さが大体わかる。


 弱いゲートの場合、洞窟形状。そこから強い順で森形状、砂漠形状、氷山形状などの自然型があるが、気温は意外に普通だという。


 さらにそれらを越えると、城形状のマップがあり、その上には遺跡や異界があるみたいだけど、それらは上位ゲートだ。


 今回入ったゲートはCランクということで、僕は初めて入る砂漠のフィールドだった。


 洞窟は一本道が多いため道に迷うことはないけど、こういうフィールド型になると、奥にいるボスと出会うのは中々難しい。


「神威くんよ。あそこが広がるのが見えるか?」


 則夫のりおさんが指差したところは、砂漠の先だ。


「砂が段々増えていく……?」


「ああ。現在、ゲートが成長している証拠だ。外から見えたゲートと一緒で中も同じく広がるんだ。その代わり――――あれだ」


 今度指差したところにあったのは、今まで見たこともない巨大な蛇だった。いや、蛇のような体を持つ何か。頭は大きな口しかない。


「これって……もしかしてワーム種ですか?」


「ああ。砂漠ステージによくいるモンスターだ。デカいし速いから気を付けろよ」


「は、はい!」


 思っていたよりも早くフロアボスモンスターとの戦いが始まった。


 則夫さんは僕を守ってくれるために残っていて、他の六人がワームと戦い始める。


 モンスターはワーム以外もサソリ型モンスターが現れたりして、かなり混戦になった。


「の、則夫さん! 僕は逃げるのが得意なので参戦してください!」


「むっ!? だ、だが……お前さんの安全が……」


 探索者の多くは弱い者に酷く当たる。それなのに則夫さん達はどこまでも優しく、自分達の都合よりも僕を優先してくれた。


僕は荷物になるために則夫さん達を追いかけてきたわけじゃない……!


「大丈夫です!」


「……わかった。ひたすら逃げ続けていてくれ! さっさと片付けてくるぜ!」


 則夫さんも参戦し、少し押されていたところに勢いがつく。


 サソリ型モンスターは殻が硬いようで、則夫さん達の攻撃でも吹き飛ばされるだけで中々倒されずにいた。


 普通の人では動きを目で追うことすら難しいCランクゲート内のモンスター。


 僕も逃げるのがやっとだ。


 そのとき、一匹のサソリ型モンスターが僕に向かってやってきた。


 則夫さん達が倒すまで避け続ける。


 しかし、足場が非常に悪くて、通常の洞窟とはまるで違う。


 それでも何とかギリギリ避けることができて、何とかサソリの尻尾攻撃を避け続けた。




 それからどれくらい時間が経ったのかわからないくらい必死に避け続けた。




 息が上がり、足が重い。


 それでもモンスターの動きに疲れは出ず、延々と僕を狙い続けて止まることはない。


 ――――その時だった。


 背中に激痛が走る。


「ああああああああ!」


 続いて前方にいたサソリの尻尾が僕の太ももを貫く。


 あまりの痛みに今何が起きているのか理解するのに時間がかかった。


 後ろから僕の腰にサソリの尻尾が刺さっている。


 則夫さん達は……?


 ふと視界に入ったのは――――――――
















「則。今回は楽勝だったな」


「ですね~あいつが自滅してくれてわざわざ手を下すまでもなかったから楽でした」


 則夫……さん?


 彼らの後ろにはワームが倒れていて、全員が腕を組んで僕を見つめていた。


 ど、どうして……?


 彼らは僕を助けることなく、ゆっくり出口に向かって歩いていく。


 襲うサソリに苦労していたはずなのに、一撃で倒している。


「あいつFランクだったよな。クククッ。可哀想に」


「いや、自分から逃げ回るって言ってたし、英雄っすよ英雄~」


「英雄だ~? がーはははっ! 名付けてゴミクズ英雄だな!」


「「「「ぷはははは!」」」」


 彼らは僕を嘲笑いながらどんどん去っていく。


 手を伸ばしても、彼らは一度も振り向くことなく――――ゲートの外に出た。




 どうして……こんなことになったんだろう?


 僕はただ……妹を救いたいだけなのに……“魔欠症”のせいで今も眠ったまま……残り命僅かの彼女を助けられるのは……僕だけのはずなのに…………こんなところで……こんなところで死んでたまるか!


 ユニークジョブ……! 僕にもしユニークとしての力があるなら開花してくれ……こんなところで死ぬわけにはいかない!


 ふと、僕を嘲笑うあの人達の顔が思い浮かんだ。


 僕が何か彼らに悪いことでもしたのか……? 今日だって初めて会ったばかりなのに……どうしてこんな酷いことができるんだ?


 そもそもあいつらだけじゃない……Fランクゲートを攻略したときですら……あいつらは自分が強いから……囮しかできないって理由だけで……それを当然のように蔑んだ。こんな世界が……こんな世界が許されていいのか?


 ――――理不尽な世界を受け入れるのか?


「嫌だ……そんな理不尽なんて受け入れたくない! 絶対に嫌だあああ! 妹を救うその日まで、僕は絶対に諦めない! 理不尽に屈しない! 何が何でも生き続けるんだああああ!」


 太ももに刺さっていたサソリの尻尾を握りしめる。


「足の一本や二本くらいくれてやる……! ああああああ!」


 僕は――――それをより差し込んだ。


 いつの間にか痛みも感じなくなって、自分の足が貫かれても何も感じない。


 それよりも、貫いた尻尾を後ろにいるサソリにそのまま差し込んだ。


 後ろにいたサソリの頭部に、前方のサソリの尻尾が刺さる。


「ギャシャァァァァァ!」


 何でもいい……! 何でもいいから生きる力を……! 何でも……何でもいいから!
















 ――――【ジョブ『クラウン』のモンスターの攻撃を利用した初討伐を確認。スキル『吸魂きゅうこん』を獲得。】


 ――――【スキル『吸魂』により対象『デッドリースコーピオン』の魂を吸収。】


 ――――【魂獲得を確認。ユニークスキル『降臨こうりん』を獲得。】


 ――――【ユニークスキル『降臨』を使用し、魂『デッドリースコーピオン』を解放しますか?(Y/N)】
















 何でもいい……! 力になるなら……それを選ぶ!


 次の瞬間、僕の体の底から凄まじい力が沸き上がるのを感じる。


 今まで感じたこともない、強大な力が。


 何だか……気分が高揚するのを感じる。


 何だこれは? 今まで……こんな気持ちになったことはない。






 今なら――――――――誰でも殺せる気がする。






 っ!? 僕は今何を……?


 そんなことよりも、周りのサソリどもを何とかしなければ。


 いつの間にか落とされた足や貫かれていた腹部も全て完治している。


 世界はまるで止まっているかのように、サソリや崩壊する砂漠が止まっていた。


 ふと、僕の前に拳サイズの小さな丸いものが浮かんでいて、中に小さな黒いサソリが浮かんでいる。


 何となくそれが僕の新しい力だとわかる。


 迷うことなどない。生きれるなら何でもするって決めた。


 僕は手を伸ばして、そのサソリの丸い霊のようなものに触れた。


 一気に時間が加速して周りが動き出す。


 だが、それでも今の自分なら……やれる!


 前方のサソリの頭部を目掛けて、拳を叩きつける。


 今までなら効くはずのない僕の拳は、いとも簡単にサソリの頭部を潰し、一撃で倒した。


 それから無我夢中で僕に寄ってくるサソリを倒し続け――――気が付くとゲートの崩壊が終わり、僕は黒い世界に一人残され――――気を失った。

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