第139話
数日ほど様子を見てみたが、監視の目や追跡者らしき気配は感じなかった。
やはり王家の間士の存在を匂わせたことが功を奏したのかもしれない。
こういったものは微妙なさじ加減での匂わせが必要だった。あからさまな動きでも霞ませ過ぎてもダメだ。
相手も海千山千の老獪である。雑な種まきをしてしまうと芽が出る前に雨で流されるか、水分過多で種子が腐るのと同じなのだ。
幸いにも、あの御仁は利だけ得て詮索を止めるという思考に至ったのかもしれない。
まだ気を抜くには早いが、この先が最善の流れとなれば、今案件は結末まで一気に加速する可能性すらあった。
ソフィアを救いたい一心でこちらに来たのではない。
もちろん、彼女が俺と同郷だということも理由の一つではあった。元の世界の平穏を案ずるなら、今後の共闘が望ましい。しかし、それ以上にカレンの存在と冒険者ギルドの特命執行官としての矜恃が俺を駆り立てたのだ。
ゾディ茶に関する根は深かった。
王族の一部や上位貴族にも浸透しているだけではない。
強力な魔物を圧倒する人外じみた高ランク冒険者もまた、その副作用によって利用される身となっていたのである。
本人が堕ちていくのは自業自得な面もあるため、助けてやろうなどとは思っていない。ただ、強大な魔物は災害そのものである。理不尽な力で多くの者たちを死地に向かわせるのだ。
そういった者たちを救うためには、当該の冒険者の力が必要になる。
残念ながら、俺にはそれにとって変わるほどの力はなかった。それは金鷲騎士団や国の軍でも変わりない。
災害級に位置する魔物は、ごくわずかな冒険者たちにしか相手どれなかった。
そいつらを本来の立ち位置に戻す。そのためにここまで苦労して暗躍を続けてきたのである。
「さて、そろそろ終焉とさせてもらわなければな。」
俺は一度思考を停止して、宿泊施設から外へと出た。
黄昏亭に常泊しているのではない。
あれは金鷲騎士団の団長を動かすための餌に過ぎなかった。
そういえば、黄昏亭の宿泊代はそれなりのものだが、経費で落ちるのだろうか。自腹となるとさすがに手痛いなどと考えながら、目星をつけていた店に入る。
「いらっしゃいませ!」
まだ十代半ばと見える女性が、にこやかにそう反応した。
隅の二人がけのテーブルへと行き、エールを注文する。
「おすすめの料理を3つ4つ見繕って欲しい。できれば肉、野菜、汁物をバランスよく。」
「はい、喜んで。」
遠方での任務中は食事くらいしか楽しみがない。
そろそろカレンの温もりが欲しくなってきたが、もう少しがんばれば帰れるだろう。
「あ、虫とかカエルの料理はいらないから。」
地方によってはそういったものが郷土料理となっていることがある。
隣の席にいるオッサンたちがカエルの足を摘んでいるのを見て、そう言っておいた。
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