第138話
「それで、その者の素性は未だ不明だというのか?」
御館様も多忙だ。
面談の申し出の翌日に、謁見の機会が与えられることは緊急時以外は稀である。
戦時中などの例外を除き、御館様が金鷲騎士団を訪れることもほとんどない。
常日頃より近い距離にい過ぎると、政敵だけでなく王族にまでよからぬ詮索をされてしまうこともあった。
国内でも有数の騎士団に多分な影響力を持つということは、他者に対する警戒心を煽ることと同義である。
かつての戦争で金鷲騎士団と共に名を馳せた御仁であるからこそ、表面上は問題視されていない。
しかし、それも微妙な綱の上に立っていることを自覚しないわけにはいかなかった。
「申し訳ございません。現在、騎士団長自ら調査に当たっております。間もなくこちらに到着すると思いますので、しばしお待ちください。」
金鷲騎士団の副団長は、突如現れた御館様の対応に追われていた。
それだけ、御館様にとって事の進捗が気になるということだろう。
「ドルトは単独で動いておるのか?それに、おまえにも情報を共有していないとは珍しいな。」
「少し厄介な相手かもしれないそうで、慎重にならざるを得ないと聞いております。」
「そうか。」
ドルトがそう話すのであれば、本当に厄介なのだろう。
彼は自らが率先して関与する気はないにしても、政治や王城についても明るかった。
自分自身や騎士団が、いらぬ政略や王族貴族の揉め事に関与しないための予防線を張るためである。ゆえに、常日頃より必要なことは知識として詰め込んでいた。
そのドルトが慎重を期しているのである。もしかすると、王族が絡んでいる可能性すらあった。
しばらくしてドアがノックされ、そのドルトが入室する。出先から戻り、御館様の来訪を聞いて取り急ぎこちらに向かったのだ。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。」
「かまわん。来訪の目的は聞いたか?」
「はい。それについて、現在の調査状況を御報告したいと考えております。」
そこでドルトは副団長に目線を送った。
副団長は目敏く気づき、黙って退室する。
「早速ですが、少し厄介な相手かもしれません。」
「ふむ。」
御館様は目線で先を促した。
「間士、しかも王族直属の者が絡んでいるかもしれません。」
ドルトはこれまでの出来事について簡潔に説明した。
「証拠はない。しかし、もし本当にそうだとすると面倒なことになる⋯か。」
こういったケースは非常に扱いが難しくなる。
王家の関与がどうであるかは、調べることが相当に難しいものなのだ。また、そうでなかった場合も、動きが知れると不敬や反逆行為と映る可能性すらあった。
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