第140話
数日前に公爵家の次男が亡くなった。
死因は不明だ。
三十代半ばの年齢だったため様々な憶測が飛んだが、公然と口にすることは躊躇われた。
公爵家といえば、基本的に王族である。
しかも、その直系が命を失ったのだから、下手な噂をするのは命取りになりかねない。
真相は不明なまま迅速に告別式が行われ、それからしばらくすると噂も立たなくなった。
ドルトは夜道を歩きながら「これもひとつの謀略か」と、何気につぶやいていたことに気づく。
苦笑しながらも、真っ直ぐに先を見据えながら歩調を早くする。
向かっている先は冒険者ギルド本部だ。
本来ならば、協業することもほとんどない組織である。しかし、御館様からの命により、ある人物と会う約束になっていた。
正面に見えてきた建物は、艶のある黒い石材によって玄関周りの意匠が凝らされている。煌びやかで重厚感もある見た目だが、威圧感も与えるため王城などではあまり使用されない材質である。
二枚扉を開けると広いホールが視界に入ってきた。
一般的な冒険者ギルドとは異なり、喧騒に包まれることはない。
ここは本部機能だけが集約された建物なのである。ホール内の奥に幅広のカウンターが設置されており、そこに二名の女性がいた。
「金鷲騎士団のドルト・テッケンガーだ。こちらの総裁と約束があって来た。」
「確認致します。少々お待ちくださいませ。」
カウンターの横にある待合のソファへと案内されて腰をおろした。
総裁というのは冒険者ギルド本部におけるトップである。支部長などとは違い計り知れない権限持っており、王城や貴族に対しても強い発言権を有していた。支部長は高い裁量を持つが、こと対外的な権力という面では総裁にははるかに及ばない。
「お待たせしました。ご案内致します。」
アポイントメントの有無を確認し終わった受付嬢に誘導され、ドルトは建物の奥へと入って行く。
事前に御館様から封書を預かっており、今回の訪問目的についても熟知している。しかし、順当な結果となるかは総裁と会ってみなければわからない。
職位でいえば相手の方が上である。当然のことだが、互いのプライドのぶつかりあいや、職域侵犯にならないよう配慮しなければならない。
ドルトから何かを仕掛ける気はないが、相手の出方は未知数でしかないのだ。
受付嬢には気づかれないように、深く息を吸って気を静める。
ドルトにとってあまり好ましいものではないが、これもひとつの戦場だった。
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