第134話
天井を見たドルトは絶句した。
中央部分を凹ませて天井高を上げた折り上げ天井という造りで、その中に格子状の化粧梁や艶やかな色彩で意匠を凝らした贅沢な装いになっている。
その中央部分には小型ながら煌びやかなシャンデリアがぶら下がっているのだが、そこに手に持ったものと同じ封筒らしきものが挟まっていた。
上着の内ポケットに封筒が入っていたことに関しては、外で嫌な気配を感じたあの時に忍ばされたものだろう。
では、この天井の封筒はいつ用意されたのか。
『上を見ろ』と書かれていたことから、この部屋に通されることはあらかじめ予期されていたということだ。
そして、今日の訪問については黄昏亭のオーナーにも事前に伝えていなかった。
まさかとは思いながらも、オーナーとタレコミ屋につながりがないという確証はなかったのである。
そのために突然に訪問し、もしオーナーが不在だった場合は、跡取りとして要職に就くその息子に封筒や便箋の提供した相手をたずねるつもりだったのだ。息子とは彼が幼い時より面識があり、理屈の通った依頼なら聞き入れる素養も持っていた。
しかし、これはいったいどういうことなのか。
他に黄昏亭を訪問することを知る者は副団長くらいなものである。
だが、副団長の実力は把握していた。
彼は自分と並ぶ実力者ではあるが、気配を違えることはない。むしろ近い距離にいることが多いため、その呼吸はすぐにわかる。その彼が上着の内ポケットに封筒を忍ばせたのなら、すぐに気づくだろう。
それに副団長は優秀だ。そのような疑いを持たれる行動はしないはずである。
「すまないが・・・あれを取りたい。椅子を一脚借りてもいいだろうか?」
ドルトはメイドにそう告げた。
主人が不在のこの部屋で、もともと置かれていた怪しげな封筒を手に取りたいと言っているのだ。これではこちらが不審者ではないか。
「あれ、ですか・・・」
ドルトの指差す方向を見て、メイドも目を丸くしている。
手に持った手紙の文章を見せてみた。
メイドはそれを読み、天井とドルトの顔を見比べながら怪訝な表情を無理矢理抑え込んでいる。
それはそうだろう。
普通ならドルトが何か悪戯でも行っているのかと思うような流れである。
『上を見ろ』などというふざけた手紙を見せたのは間違いなく早計だった。少なからず自分も混乱しているようだ。
そのタイミングでドアがノックされて、ひとりの男が入ってきた。
「お待たせ致しました。おや、どうかされましたか?」
入ってきたのは黄昏亭のオーナーだった。
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