第133話
メイドに手渡された封書を見て、ドルトは背中に嫌な汗をかくのを感じた。
百戦錬磨といわれた闘将といわれて久しいが、今日ほど得体の知れない不気味さをおぼえたことはない。
手にしたのは、この黄昏亭に来る理由となった封書と同じ物である。
厳密にいえば、黄昏亭オリジナルの封筒だった。
黄昏亭のオーナーに可能な限りの事情を話し、これと同じ物を提供した人物を教えてもらうつもりで来訪したのだ。
しかし、サンプルとして持参した封筒は折りたたんでシャツの胸ポケットに入れていた。
メイドから手渡されたものはそれよりも新しく、汚れやシワが一つもなかったのである。
いつ、この封筒を上着の内ポケットに入れられたのだ?
普通に考えれば、最大のチャンスは自分にその存在を教えたメイドにしかないといえる。黄昏亭の封筒を手に入れることも彼女の立場からすると難しいことではない。
しかし、彼女に不穏な動きはなかった。
それに、わざわざ自分の目の前でそんなことをするはずもないだろう。
となると、考えられるのは来る道中のあの時しかない。
幻想と感じたのは魔法の類なのか。
いや、そんなものなら魔力のゆらぎのようなものがあったはずだ。
あれは押し殺したものと、意図的に漂わせた気配に違いない。
いつでもこちらをどうにかできるという恫喝めいたものだろうか。それとも、自らの力量を示すことで対等な話し合いに持ち込むための布石としたかったのか。
計り知れない。
今はそうとしか思えなかった。
どこの誰かはわからないが、ずいぶんとまわりくどいことをする。
いや、こちらの立場と奥に控えておられるお館様のことを思えば、当たり前のことかもしれない。
ドルトはメイドからペーパーナイフを受け取り、慎重に封の傍を開封した。これで何通目かになるため、まさか毒針などが仕込まれているとも思えなかったが慎重に扱う。
中から几帳面に折りたたまれた2枚の便箋を取り出した。いつも通り、外側の1枚は透かし防止のための白紙便箋のようだ。
そして、折りたたまれた便箋をゆっくりと開いた。
「!?」
ドルトはその内容を見て目を丸くした。
便箋には達筆な文字で一文だけが書かれている。
「何のつもりだ。まさか、ふざけているのではあるまいな⋯」
ドルトはそう呟きながら、真上の天井へと視線を向ける。
因みに、便箋にはこう書かれていた。
『上を見ろ』と。
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