第125話

商人の指示で貴族街を訪れたらしい男の行先は、とある豪奢な屋敷だった。


門前で屋敷の私兵に封書のような物を手渡し、その返答を待っている間にちょっとした時間が過ぎていった。


俺は不審者として見られないように気を配りながら、屋敷内へと入って行った私兵の戻りを待つ。


15分ほどが経過した頃だろうか、私兵は片手に封書を持って戻って来た。


商人の使いはその封書を受け取り、すぐに馬車に乗って来た道を折り返して行く。


屋敷の主が誰なのか気になったが、元の世界のように表札が出ているわけでもなく、だからといって私兵や近くを通り過ぎる者に聞くわけにもいかなかった。


商人の使いが乗る馬車を再び追うことにする。


おそらく、行先は出発した店と変わらないだろう。


もう少し重要な役目を担っていると期待していたが、使いはただのメッセンジャーでしかなかったようだ。


まあ、それも想定内といえば想定内で、封書を持ち帰った後の商人たちの動きに注力するつもりだった。


あの封書は屋敷の主か、その執事による返信だろう。


入札での予想外の出来事と、金鷲騎士団の介入によって二の足を踏むことになったことへの相談ではないかと思えた。


慎重を期してしばらくは目立った動きをするなという忠告ならば厄介だが、その可能性は低いと思える。


確かに入札では好き勝手にできなくなったが、今のところ商人たちや屋敷の主に致命的な実害を及ぼすまでには至っていない。


さらにゾディ茶の供給元に肉薄するにも至っていないため、目の前の利益を優先して即時対抗策を講じるつもりだろう。


奴らが貝のように口を閉ざされて行動を制限されることを恐れていたが、これで大した動きができなかった段階は過ぎたといえよう。


屋敷の主の正体を暴き、その向こう側にいる者を明らかにするためには都合がいい。


俺はあの御仁に近々封書を送ることにした。


内容は当然のことだが、「サロンを通じてゾディ茶のヘビーユーザーを探れ」である。


有力な貴族内に供給元に近い人物がいるはずだと考えていた。ヘビーユーザーなら、その売人とも接点が多いだろう。


それを別の角度から調べてもらうことで囮に使う。


それによる牽制で動きを封じてしまったとしても、それは貴族内だけの話である。


俺にとっては、ゾディ茶による有力者の間接支配など二の次だった。


真の目的は供給元を暴き出しての壊滅である。


それ以外の細々した小悪党どもは他に任せればいい話だった。




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