第126話

使いの者が店に到着しても、すぐに動きはなかった。


後日に呼び出されたか、どこかで会合でも開くのかのどちらかだろう。


店内に乗り込んでも何も起こらないのは明らかだ。


もうしばらく様子を見てから引き上げようかと思った時に、反対側の路地から店をうかがう人影が見えた。


先ほどまでは誰もいなかったはずだ。


俺と目的が同じとは思わないが気になった。


店やその従業員に用があるのか、それとも客が目当てだろうか。


少なくとも知人を待っている様子ではない。


何か一波乱ありそうだと思い、その人影を観察することにした。


線が細く、背もそれほど高くない。


シルエットだけでは中性的な印象だが、時折見せる動作や仕草からは男性のように見えた。


商人の内の誰かに恨みを持つ者だろうか。


殴り込みに行くような気性の荒さは感じられない。だからといって、静かに監視しているような冷静さも持ち合わせていないようだ。


そわそわと動き回り、時折り苛立っているのか小声で悪態を吐いているように見える。


危なっかしい状態、そういった印象しか持てなかった。


あれはただの素人だろう。何かアクションを起こしたとして、衛兵に突き出されるか袋叩きにされるのがいいところだ。


近くの店の者が不審に思ったのか、その人物の方を凝視しながら他の従業員に何か指示を与えている。


従業員は店の奥に引っ込んだが、裏口から出て来たのか店の横の路地からメインストリートの方へ走り去っていった。


あれはおそらく衛兵を呼びに行かれたな、と内心で思いながら視線を元に戻す。


異変を感じてその場を去ればよかったのだが、その人物は同じ場所で変わらぬ様子を見せていた。


しばらくして、衛兵が呼ばれたと考えていたことが間違いだとわかる。


近くの店の従業員は、人相の悪い奴らを連れて来たのだ。


冒険者か傭兵崩れに見える。


全員が頑健な体格に獰猛な顔つきをしており、荒ごとに慣れた太々しさを身にまとっていた。


喧嘩自慢のチンピラではなさそうだ。


濃い血の臭いを感じるほど修羅場をくぐった連中のようである。


俺はそいつらの死角になる位置に移動した。


さて、どういった展開となるかはわからないが、様子を見てから次の行動を決めても遅くはないだろう。


しばらくして、監視を行なっていた人物は、背後からいきなり後頭部を鈍器で殴られてそのまま連れ去られた。


思っていた以上に血の気の多い連中だったようだ。





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