第123話
ミハエルの所に詰めかけていた商人たちを尾行した。
もちろん全員を追う訳にはいかないのだが、今後の対応について話の場を設けるためか、代表者的な商人の経営する高級飲食店へと肩を並べて入っていく。
潜入してどのような話し合いがもたれるかを聞いてみたいところだが、急ごしらえで店員に化けたところで怪しまれるだけだ。
外から見るだけでは中の間取りや配置はわからない。
この場は諦めて、近くにある路地に身を潜めて様子をうかがうことにした。
近くにカフェでもあれば監視しながら時間を潰すこともできるが、この世界ではあまりカフェというものは存在しない。
庶民にお茶を楽しむといった趣向がないわけではなく、お金を出してお茶を飲むといった習慣がないのである。彼らの多くは自らが採取したハーブや野草を煎じたものを飲む。
一方、貴族や大商人などは紅茶を楽しむのが風情やステータスの高さだと感じているようだ。
とはいえ、ティーラウンジのようなものを利用するわけではなく、商業的にもそういったものの運営は難しいと聞く。上流階級しか利用しないのだから、その理由は明白といえよう。
だからこそ秘密倶楽部のような形態でゾディ茶が普及し、様々な方面で問題が起きている。特に催淫作用や快楽堕ちなどで貴族やブルジョワ層が汚染されている様は、元の世界の富裕層における薬物乱用と同じ傾向だった。
そういった薬物自体が法的に規制されているかといえば難しいところだ。怪我や病気における薬として催淫作用はないものの、鎮痛や鎮静効果といった似たような効能を持つものも存在する。元の世界でもそれは同じで、アメリカなどは州によって規制されている薬物に差異があるのが実情なのだ。
法規制されていないからといって安全ではない。副作用として幻覚・興奮作用や依存性、強迫観念や被害妄想に苛まれる者もいれば全能感に浸り常識を逸した行動に出て人生を棒に振る者も多い。
医学が発展した元の世界でもそのような状態なのだ。
回復や治癒魔法が存在し、医療科学が発展していないこちらでは法整備をすることの指標が立てにくい。
郊外の村や山間部の集落では天然のハーブや野草などを鎮痛剤や鎮静剤として常備していることも珍しくないが、そういった物には精製すると危険ドラッグになりうる物もある。
しかし、重労働者が疲労感や眠気を抑えたり、高山病の特効薬として使われる背景から考えると、全ての者に禁止を促すことは難しいのがこの世界の現実であった。
全面禁止を行うならば、人が集落以上のものを形成するすべての場所に医療施設や治癒・回復魔法士を常駐させる必要性に迫られるからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます